雪の子供
──さん!
……。
──父さん!
……んん?
──父さんってば!
ううう、うるさい。今、父さんは疲れきっていて……。
ん? 父さん?
「!?」
私は飛び上がった。な、なんだ? なんだなんだ!?
「びっくりしたなぁ! いきなり、起きるなよ!」
はっ、この声は!
「トナトナ!」
私は声の主を振りかえる。
だが、トナトナはいなかった。そのかわりに。
「となとな? なんだそりゃ」
「テリー!?」
息子がいた。
「わざわざ来てやったってのに、ぐーすか寝こけてんだもんなあ。叩いても起きねえから死んでんのかと思ったぜ」
「眠っていた?」
どうなっているんだ? お、落ち着け、よく思い出せ。私はたしか、スーと二頭のトナカイに橇から突き飛ばされて……あれ?
「私は、死んだんじゃ」
呆然と呟いた言葉に、息子が変な顔をした。
「夢でも見てたんじゃねえの?」
夢? 夢……。
「ほら、さっさと起きろって。今、オリビアが、七面鳥焼いてっからよ」
私はどうにも腑に落ちないものを感じながら寝台を下りる。
「今は、いつだ?」
「二十四日の夜、クリスマス! 本当に、大丈夫か?」
二十四日の夜? クリスマス?
なんとはなしに、私は枕元のサイドテーブルに目を向ける。
そこに一枚の紙が落ちていた。私はそれを読んで、思わず苦笑した。
紙には、こう書かれていた
どうか、父とともに、毎年のクリスマスを祝えますように。
テリー、オリビア、スティーブン。
「……オリビアと、スティーブンも来てるのか?」
私は”最後の仕事”を終わらせるべく、息子を近くに呼び寄せる。
息子はためらいつつも、私の隣にやってきた。
「おう。一緒だ」
「どうして来てくれたんだ?」
息子はその問いに、なんとも言えない顔をした。
「べ、別に。暇だったから来ただけだ」
「そうか?」
私はクツクツと笑う。
そして、サンタ用の営業スマイルを浮かべ、言ってやった。
「来年も来てくれるか?」
息子は目をまん丸にして、顔を赤くして怒鳴った。
「い、行ってやってもいいぞ!」
あれが夢であったのかどうか、私には正直わからない。
もしかしたら、私の自分勝手な夢であったかもしれない。あの路地裏で亡くなった老人に見せたような奇跡、サンタクロースからの夢のプレゼントであったかもしれない。
死んでいないのもプレゼントか? それとも、もともと死んでいなかったのだろうか。だとしたら、本物のサンタに一杯食わされたことになる。
まいった。当分は眠れなさそうだ。いや、それともいい暇つぶしになるだろうか。
私は窓の外を見て、だれにともなく笑いかけた。
白い霜にふちどられた硝子の外には、雪が、降っていた。