ホーバーの思いもよらぬとんだ一幕

06

 大型帆船バックロー号の二層の廊下隅には、洗面所がある。
 ちょっとした流し台があり、その横には蛇口のついた樽が置かれている。樽の中は真水だ。それも港町から調達して、樽に積んでおいた水ではない。海水を浄化したものである。
 ポンプで海水を汲み上げ、それを浄水装置で浄化し、樽の中は常に一定の水位が保たれるようになっている。メル博士の発明品の中で、数少ない「無害で使える」ものの一つだった。
 ガー……ッガガガッガガガ!
 唯一の欠点である大騒音の中、ホーバーは両掌に透明な水を注ぐ。流し台に顔を近づけて、掌を水と一緒に顔にぶつけた。タオルなどという消耗品は置いていないので、濡れた顔をシャツの肩口で適当に拭って顔を上げた。
「……お、お、おはよう、副船長」
 徐々に静まってゆく騒音にまぎれて、かすかな声がホーバーの耳に届いた。
 入り口に目をやると、廊下に、長い前髪で目元を隠した、武器保管係フェルカの頼りなげな姿があった。
 ホーバーは前髪の滴を乱雑に払いながら、「はよ、フェルカ」と答えた。
「……」
「……」
 いつもならそれで去るはずの気弱な青年は、今日に限ってその場に踏みとどまった。きょとんと見返すと、フェルカはぼっと赤面して、足をもじもじ床に擦りつける。不審極まりない態度である。
 しかし首をかしげるホーバーを、しばらくちらちらと見つめていたフェルカは、唐突に首をぶんぶん振って、「や、やっぱりなんでもないです~!」と洗面所を飛び出していってしまった。
「……???」
 一人取り残されたホーバーは、呆気とその姿を見送った。

「おい!」
 洗面所から廊下に出たホーバーを、偉そうに出迎えたのは、船管理のレナ=バーンスだった。
 廊下のど真ん中に、通してなるものかとばかりに仁王立ち、いつもの神経質な眼差しでホーバーを睨み上げている。
「おー、珍しい、レナから話し掛けてくるなんて」
「私の名を気安く呼ぶな!」
 驚いた様子のホーバーを罵って、常日頃から彼に反発してばかりの元海軍女指揮官は、ふんっと顔をそむけた。
「いつもいつもヘラヘラしおって! それでラギルニット船長の補佐役とは、片腹痛いわ! シャキっとせんかシャキっと!」
 軍人ばりばりなその物言いに、ホーバーは笑いを堪えながら、「はぁ」と適当にうなずく。それ、怒った子供を適当にあしらうような態度だと感じたレナは、カッと顔を赤くすると、壁に拳を叩きつけた。
「……っ貴様がそんな隙だらけだから、クロックごとき雄豚に、妙な策略をかけられるのだぞ! 分かっているのか、馬鹿者がぁ!」
 レナはそう吐き捨てて、しばらく苛々とホーバーの顔を睨みつけていた。しかしやがて唇を噛みしめると、乱暴に身を翻して去っていってしまった。
 ホーバーはこめかみの辺りを指でかいて、不可解そうに首を傾げた。
「……用はなんだったんだ」
「えーい! 膝カックン!」
 カクン。
「……」
 どて。
「いえーい! だーいせーいこー!」
 唐突に背後から膝の裏を突かれ、床に倒れ伏したホーバーは、遠ざかってゆくレイム少年の声を聞いてガバッと起き上がった。
「……レイム!」
「バカになれぇ!」
「────っ」
 ゲシッ!
 持ち上げた後頭部を、何者かが飛び蹴りをいれた。再び頭を床に落とすホーバーの脇を、オレンジ頭が過ぎ去っていった。
「…………」
 もはや起き上がる気力も失せたホーバーは、廊下の端の方で上がった「ざまぁみろ!」「ホーバーのターコ!」というレイムとキャエズの叫び声を聞きながら、「だから何なんだよ」と低く呟くのだった。

+++

 クロック船長は船長室の光景を見て、ひどく情ない気分になった。
「あら、おはようございます、旦那様」
 ひょいひょいと手を動かしていた老婆は、クロックに気付いて顔を上げた。昨夜あれほど綺麗に飾りつけられた船長室は、今やテラの手によって普段の様子を取り戻し始めていた。
 クロック船長はやれやれとうなだれた。
「……何かこう、あれだな。失敗の後片付けというのは、ひどく情ない気分になるな……」
「怒りにまかせて羽枕を引きちぎっておいて、あとあと散らばった羽を片付けるときの、あの複雑な気分に似ております」
 テラが次々と布を畳みながら、ちっとも複雑ではなさそうに答えた。クロックは彼女のその言い回しに憮然としつつ、どうにか込上げる感情を堪えて続けた。
「ラナはどこだ」
 皺を伸ばすため、テラがパンッと畳んだ布を引っ張った。
「存じません」
 クロック船長は眉間に皺を寄せる。
「お前は、ラナの乳母であろう。何故知らんのだ」
「あら、旦那様にはデトラナ様がまだ乳飲み子に見えますか。あたくしにはあたくしで用事がありますので、もう始終面倒を見る必要もないラナ様の居場所を、常になど知る必要はありませんでしょ」
「……ぐぬぬ」
 クロック船長は何か文句を言いたげに口を開閉させたが、テラに聞く耳がないのを悟ると、ふんっと船長室を出て行った。
 バタン!
 扉が乱暴に閉められる。
 テラはしばらく布を畳んでいたが、しばらくしてから「もう大丈夫ですよ」と呟いた。
「……」
 その言葉を受けて、船長室の大きな作戦机の下から、デトラナが悄然と這い出てきた。いつものように皺くちゃに微笑んでいるテラの横まで出てくると、すかさず乳母が置いてくれたクッションの上にあくまでも優雅さは失わず胡座をかいた。
「ありがとう、テラ」
 礼を言うと同時に、デトラナは深々と溜め息を落とした。
「幸せが逃げますよ」
 テラにつっこまれ、デトラナはぐっと口を閉ざす。
 だがこの状況で溜め息をつくなというのは、ひどく難しい注文だった。
「……どうしたらよいのかしら、わたくし」
 もはや彼女に自信など欠片も見られない。昨夜の悪夢はすっかりデトラナから気力も自信も失わせてしまった。それにくわえ、眠い。眠さで、気が弱っている。
「悩んでいても仕方ありませんわ、ラナ様。行動あるのみです」
「でも、今度失敗したら、次こそお父様はお怒りになるわ」
「このままぐずっていても、旦那様はお怒りになりますとも」
「……そうだけど」
 テラの説得も今は聞く気になれなかった。デトラナは少しばかり色の悪い顔をうつむかせ、悔しそうに歯噛みした。
「何でホーバー様は、男色家なのかしら」
 相変わらず勘違いしている女である。
「普通の趣向の方だったなら、もっとあっさりいったはずなのに」
「それを治してさしあげるのでしょう?」
「……重症ですもの。重症な男色家なんですもの」
 テラは弱気なデトラナの頬を、両手でぴしゃりと叩いた。
「だからこそ、やりがいがあるのではありませんか! ──いいですか、デトラナ様。貴女ほどの魅力ある女性はおりません! このテラ、もしも男であったなら、デトラナ様に今すぐちゅーをおります!」
「……勘弁してくださいまし」
「さあ、いつものラナ様に戻ってください! 自信を持って!」
 テラの必死の励ましに、デトラナは少しばかり表情を改めた。どことなく姿勢もピンとしてくる。テラは満足そうにうなずき、ぐっと拳を固めて言った。
「あの男色家を貴女の手で立ち直らせるのですよ! さ、いつものように唱えましょう! "わたくしは美しい"、"わたくしは美しい"。ご一緒に!」
「……わたくしは美しい、わたくしは美しい」
「もっとぉ!」
「わたくしは美しいわたくしは美しいわたくしは……」
 デトラナは唇を噛みしめ、キッと立ち上がった。
「美しい……!」
「ああっ、素敵です、ラナ様!」
 船長室にテラ一人による大喝采と、デトラナの美声が響き渡った。
 どこまでもどこまでも、暴走する二人である。

「まったくあの乳母め! ああ言えばこう言いおって。昔からああだ! まったくどうしてくれよう!」
 クロック船長はぶつぶつ文句を言いながら、足音も高くバックロー号の甲板を歩いていた。デトラナは船長室にいるとも気付かずに、美しい娘の姿を探して、船内の甲板をきょろきょろと見回す。
 そしてふと気付いて、クロック船長はむむっと眉根をひそめた。
 甲板にいた船員たちの雰囲気が、微妙に変わっていた。何と言えばいいのか、クロックを見る目がどこか恨めしげな気がするのだ。
「……何だ」
 クロックは据わった目で甲板を左から右へと薙いでゆく。視線があった順からあからさまに目をそらすのは、バクスクラッシャーの船員たち。
(なるほど、ホーバー殿を手放したくはない、というわけか)
 瞬時にそう悟ったクロックは、クツクツと満足そうに笑い声をたてた。
(さすがわしの見こんだ男、船員の信頼度は高いようだな)
「フン」
 甲板の上の船員たちを鼻を鳴らして一蹴し、クロックは船内への扉を開けた。 

「ホーバー殿!」
 そんな声が背後から近づいてきて、ホーバーは咄嗟にカトラスに手をかけた。据わった表情でくるりと振り返ると、そこには怒涛のごとく暴走牛のごとく、ウグドが突進してくるところだった。
「ホー……──」
 ウグドはホーバーがカトラスに手を添えているのを見て取るなり、サッと青ざめてふいっと身を翻し、来たときと同じ勢いで去っていってしまった。
「…………」
 ホーバーはカトラスの柄から手を離すと、うんざりざりざりと目を細めた。
 一体何だというのか、今日は昨日にもまして船員どもが突っかかってきた。
 昨日はまだ「結婚おめでとー!」など、からかいの主旨も見えたのだが、今日はまるでとりとめない。いきなりどついてきて、去ってゆく。何か言いたげに呻いたかと思えば、結局足を踏んづけて去ってゆく。ともかくまるで意図が分からないものばかりだった。
 初めのうちは「どうした?」と律儀に声をかけていたホーバーだったが、途中で穏やかな面構えを放棄していた。
 ホーバーは昨日にもまして不機嫌度の高まった顔を顰めながら、大きく肩を落とした。
「……はぁ」
「シャークキーック!」
 と、突如、本日十度目の飛び蹴りが、溜め息をついたホーバーの後頭部に炸裂した。
 どて。
「……あああ何でよけないんスか! ずるいっス! 蹴っちゃったっス!」
 その場に突っ伏したホーバーを、蹴飛ばした当の本人であるシャークがおろおろと助け起こす。すでに避けるのも面倒で、五回目で自ら喰らうようにした飛び蹴り攻撃だったが、何もかも事情の知っているシャークの攻撃に、ホーバーはさすがにぶちキレた。
 目にもとまらぬ速さで腕を繰り出してシャークの胸倉を掴み、床に引きずり倒して、あっという間に十文字固めを仕掛けた。
「……っだから、何の用だってんだよお前らはー!」
「ぎゃー! 痛いっスー! 今度は回し蹴りにするっスから許してぇ!」
「何がだアホが────!」
「じゃあ、じゃあ、今度は金蹴りにす……っ、……ん?」
 と、床の上で這いずり回る二人の上に、頭に二つのコブがついた人影が覆いかぶさった。
 顔を上げると、彼らの頭の側に、相変わらず奇天烈なピンク髪のメルが立っていた。
「……こういう馬鹿な男たちが、世界を駄目にするのよ」
 ぶすっと言ってからメルはホーバーの前にしゃがみ、手にしていたボードに羽ペンで何かを書きつけた。時折ホーバーの顔をちらりと見ながら、まるで絵描きのようなシャッシャッという挙動で羽ペンを動かしてゆく。硬直する二人を尻目に、メルは白衣のポケットから「緑」色のインクを取り出した。
 嫌な予感がしてホーバーはばっと身を起すと、メルの手からボードを奪いとった。
 そして愕然とボードに描かれたものを見る。
 横から覗き込んできたシャークもまた、描かれた物体を見てあんぐりと口を開いた。
「……何だこれ」
 どちらのものとも知れない呟きに、メルはムッと眉根を寄せて、緑色のインクで物体の頂点から線を幾筋か加えた。
 何というか、あえて言うなら、カブに似ているかもしれない。歪な円の中に、二つの点と縦線横線が一本ずつ。そして円の頂点から下に向って、緑色の線が下がっている。
 シャークがぶくくっと笑った。
「えらく美人に描いてもらったっスねぇ、ホーバーってば!」
「…………」
 ホーバーは無言で、ばこーんっとメルの頭にボードを叩きつけた。
「っ何すんのよこのミョウチクリン!」
 前のめりになったメルは、がばっと顔を上げると、ホーバーの胸倉を掴み上げた。その手首を掴み返して、ホーバーは真正面からメルのピンクの目を恨めしげに睨みつけた。
「メル、おまえまさか二号作る気じゃないだろうな。一号にそっくりじゃないかこのカブ……」
「カ、カ、カ、カブですってぇ!? こんなにそっくりな似顔絵、あたし見たことないわよー!」
「目が腐ってんのかおまえは!」
「なにをぉ! アンタなんて雪山で腐ることもできない、有害野菜じゃないのー!」
「訳わからないんだよ!」
「なによサナダムシ!」
「うーん、たのしげっス!」
 罵り合う二人の脇で、一人ニコニコと頬杖なんぞをついているシャークを、ホーバーとメルは同時に殴り飛ばした。
「大概に止めろー!」
「……あい」
 素直に謝るシャークを睨みすえ、メルはふんっと高飛車に顔をそむけて、ホーバーの手からびしっとボードを奪い取ると、さっさとその場に背を向けた。
 しかしその足がふいに立ち止まる。
「……二号、一号よりマシなもんにするから」
 決して顔は向けずに、メルはぼそぼそっと続けた。
「……困ったときは、利用、してもいいわよ」
 やがてその背が廊下の角へと消えてゆくのを見るなり、シャークが腹を抱えて笑い出した。
「か、か、かわいいっスー!」
 眉をひそめて首を傾げているホーバーに背中からしがみついて、シャークはひぃひぃと笑い転げた。
「メルちゃん、ホーバーがなんだかんだと心配なんっスよ」
 しがみつかれた重みで背中を丸めながら、ホーバーは不可解そうに眉をひそめて、「…どこが」とむすっと呟いた。
「分かってないっスねぇ。メルだけじゃないっス、みんなホーバーのこと心配してるっス」
 ホーバーはいよいよ顔を顰める。朝から始まった船員たちの狂乱は、どちらかといえばホーバーにさっさと出て行けと言わんばかりに思えるのだが。
 ホーバーがそう言うと、シャークは憎たらしいくらい柔らかな微笑を浮かべて、ホーバーの肩を叩いた。
「ホーバーが素直じゃないんスから、船員たちが素直に出るわけ、ないっス!」
 良く分からない理屈だった。と、シャークはまだ不可解そうにしているホーバーの耳元に。「ところで」とひそめた声で呟いた。
 シャークは口端に、元から浮かべていた笑みとは違う種類のものを乗せて、言った。
「ちょっとお耳を拝借したいっス」

「まったくどこに行きよったのか、可愛いラナめが」
 クロック船長はぶつぶつ独り言を言いながら、第二層への階段を腹を揺すりながら下りてゆく。二層は一層目の廊下に比べ幾らか薄暗い、目を眇めながらクロックは立ち並ぶ船室の扉を見回した。
「船室に隠れているとは考えにくいのう」
 クロックの重みに軋む廊下を、彼はゆっくりと奥に向ってゆく。以前入った時と変わりなければ、確か廊下の先にはいっちょまえに、洗面所などというものと、水洗便所と、食堂があったはずだ。
 浄水器付きの洗面所に、船にしては極めて清潔な便所が、船長は羨ましくて羨ましくて仕方なかった。シーパーズは普通の帆船だ、こんな大層なものなど付いていないのである。はっきり言ってハングリー・キング号の便所など、人外魔境だ。
「…………」
 クロック船長は嫉ましげに歯軋りし、辺りをきょろきょろと見回し誰もいないことを確認すると、衣服の隙間から成金趣味バリバリな高級万年筆を取り出して、便所の扉に素早く文字を走らせた。
『当分、故障中』
 達筆なその文字をクロック船長は満足そうに見下ろした。
 とことん、低レベルな親父である。
「……?」
 と、どこからか人の声が聞こえた気がして、クロック船長は顔を上げた。

 ──要するに、大陸の伝統が……。
 ──守ると思うか、そんなこと……。

 それは近い将来、ハングリー・キングの甲板で聞くことになるだろう声、ホーバーの声だった。誰かと密やかに会話している、それも真剣な様子で。
 クロック船長はさっと表情を険しくし、その巨体からは想像もつかない素早さと軽やかさで、足音もなく声の方へと近づいていった。
 声は二層廊下の一番奥、食堂から漏れてきていた。食堂には扉がなく、吹き抜けになっている。クロック船長は入り口脇の壁に背を預け、こっそりと中の様子を窺った。
 バックロー号の食堂は、大型帆船といえどそう広くはない。四角い木のテーブルが四つ狭そうに並べられていて、それに平行してカウンター付きの厨房があるだけだ。
 窓から射し込む光の元、テーブルに向かい合って座る二人の男がいた。一人はホーバーだ。顎に手を当てて、何か深く考え込んでいる。
 向かい合って座るのは、丸眼鏡をかけた男だった。名前ははっきりとは記憶していないが、確か鮫っぽい名前だったような気がする。──そう、コバンザメだ。
 クロック船長は、バクスクラッシャーの要である情報収集の達人の存在に、尚更警戒を強めた。何か情報を得たのだろうか、自分の企みを打破する何かを。
 クロック船長がもっとしっかり会話を聞き取ろうと、身を乗り出した──その時だった。
「もしもーし」
 突如背後から、肩をとんとんと叩かれた。
「……!」
 ぎょっと肩を尖らせて、慌てて背後を振り返ると、そこにはダラダラと長たらしい金髪を適当に後ろで結った男が立っていた。
「便所は、あっちですよ」
 男は軽い笑みを浮かべて、親指でくいっと便所の扉を指し示した。
 クロック船長は内心こんにゃろと思いながら、大きくうなずいて笑ってやった。
「そうであったか! すまんすまん、不慣れなもんだから迷ってしまったわい!」
 覗き見を見られたための誤魔化し…なんて様子は微塵も見せずに、クロック船長は本当に迷ってしまったような顔つきで、男の脇を通り抜け、便所の方へと歩いていった。
 とりあえず便所に立てこもって、男がいなくなってから、また立ち聞きしようと決意し、クロック船長は便所の扉を開けようとするが、
「あ、当分故障中みたいなんで、ハングリー・キング号の便所をご利用ください」
 男のつっこみに、クロック船長は「わしの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!」と内心で罵りながら、とほほと引き下がるのであった。

 ガルライズはクロック船長の情ない背中を見送ってから、食堂に入った。
 ホーバーとシャークが顔を上げた。
 シャークがにやっと笑っていた。

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