ホーバーの思いもよらぬとんだ一幕

10

 外から控えめに扉を叩く音が聞こえた。
 クロックは目を炯々と光らせ、極彩色のクッションに埋めていた上体を起こした。
 ぼよんと腹が揺れるのを、手で押さえて彼は笑う。
「そろそろかね?」
 典雅な鳥籠が、かしゃりと冷たい金属音をたてた。

 海賊船三隻による南下を開始して、二時間が経過した。
 舵手のルイスは、風を捕まえ、美しくはらんだ帆を見ながら舵輪を操っていた。
 ふと首を傾げる。当直の船員が手際よく進める作業の向こう、船首先端に伸びた舳先のさらに向こうで、先行していたハングリー・キング号の動きがにわかに慌しくなった。
 ほどなく、こちらに「停船」を要求する信号旗が揚がって、ルイスは目を丸くする。
「こんなところで停船?」
 周囲を見ても、いまだ陸地ひとつ見えない。海図によればマヤメナ国がだいぶ近いが、かの国の陸地が見えるにはあと一時間はかかるはずだ。こんな何もない沖合いで停船する意味が、ルイスには分からなかった。
「船長、停船要請です」
 ルイスは、足元に寝そべり、海図と睨めっこをしているラギルニットに声をかけた。ラギルニットはすぐさま身を起こし、きょとんと周囲を見渡した。
「停船?」
「ああ。ハングリー・キング号から」
「こんなとこで?」
 目をぱちくりさせて、ルイスと同じ疑問を口に上らせる。しかしこのまま追い越すわけにもいかないので、すぐに甲板の全員に聞こえる大声で「停船準備!」と指示を出した。
 了解の返答とともに、素早く畳帆を開始する甲板上の船員たち。ラギルニットは問うようにルイスを見上げるが、怪訝そうな唸り声が返ってくるばかりだ。
「おれ、見てみる」
 舵台の柵に跨り、腰のベルトに挟んでいた望遠鏡を掲げた。
「なんか、面白いもの見えるか?」
 ラギルニットは「うむぅ」と唸り声を上げる。クロック船長のことだから、目に見えて派手な「面白いもの」が出迎えるのだろうと思っていたのだが、今現在、帆船の周囲に広がるのは広大な海と空だけである。
「海と海鳥と空と、ハングリー・キング号と……??」
「やっぱりなー。これはいよいよクロックの奴、妙なことたくらんでるな。……おう、ホーバー、ご無沙汰!」
 ルイスは言葉尻を軽快に弾ませた。
 その言葉に、望遠鏡を覗きこんでいたラギルニットはびくりと肩を震わせた。港町で、粘りに粘って値段をまけてもらったお気に入りの望遠鏡なのに、危うく取り落としそうになる。横目でちらりと見てみれば、ホーバーが舵台をよろめくように登ってくるのが見えた。

「大丈夫か、ホーバー。随分と疲れてるようだけど」
 階段の最後の段でつまづいたホーバーに、ルイスの同情混じりの声がかかる。ホーバーは彼ののんきな顔を、空ろな目で見つめた。
「船で作った洗剤を山ほど譲ったら、解放してくれた」
「洗剤? え、誰に? 何が?」
「テラっておばあさん」
 さっぱり意味の分からないルイスの引いた笑顔を見て、ホーバーはさらに疲れた気分になる。説明する気力もなく、代わりに柵の上で望遠鏡を覗いているラギルニットに声をかけた。
「ラギル、何か変わったことは?」
「う、うん! え、ないよ!?」
 ラギルニットは振りかえりもせずに、望遠鏡を覗いたまま上擦った声で答えた。
 その様子に首を傾げつつ、ホーバーは深くは考えなかった。何せほかに考えなければならないことは、山のようにあるのだ。抱えてきた、血まみれのカブ頭と首のない胴体を無造作に床に転がし、自分もその傍らに腰を下ろした。
「で、何で南下してるんだ?」
「話題、遅!」
 南下を始めて二時間も経過してからのようやくの質問に、ルイスの突っ込みが入る。
 ホーバーは枯れ葉色の笑顔を浮かべた。
「お年寄りって、本当に話が長いんだ……」
 ルイスはいよいよ顔を引きつらせ、あとで医務室に連れて行こうと決意しながら、副船長への定期報告を始めた。
「二時間くらい前の話だけどな、クロック船長が見せたいものがあるとかで、南下の提案をしてきたんだ。ラギルと俺とで相談して、その提案を受けることにした」
「――クロック船長が?」
「ああ。な、ラギル?」
 ルイスは無言で望遠鏡を覗きつづけるラギルニットに声をかける。ラギルニットは背を向けたまま、「うん、そう」と小さな声で答えた。
「なんか知らんが、面白いものがあるとかで」
「航海記録は? 海図が見たい」
 やはり、どこか不自然なラギルニットを怪訝に見つめながら、ホーバーは甲板に広げられていた海図と航海記録とに目をやった。ルイスがこれまでの航路を説明する。
「二時間前のとこにマークついてるだろ? そこでラギルがクロック船長から南下の提案をされたそうだ。それを受けて南下を始めて……今は……分かるか?」
 三十分置きに、航路記録の残された海図を指でなぞって、ホーバーはうなずく。
「あと少しで岩礁地帯だ。そこを抜けると、もうタネキア大陸のマヤメナ国の北の沿岸部が見えてくるはずだ」
 マヤメナ国は、タネキア大陸の西北部に位置する、周囲三方を海に囲まれた海洋国家である。
「……マヤメナ」
 その名を思案げに反芻して、ホーバーは海図を睨むように見つめた。
「まずかったか? 相談も何もしなかったけど」
 その表情に深刻なものを感じたルイスは、躊躇いがちに問いかける。
 普通、船長か副船長が下した決定は、一度舵手を通され、最終決定がなされる。舵を操る舵手には、船長、副船長ですら持てない最高決定権が与えられているのだ。だがラギルニットはまだ幼い。そのためラギル船長の決定は一度副船長に通され、さらに舵手に通されるのが普通なのだ。
 今回は、ホーバーを通さなかった。南下指令自体は大して危険を伴うものでもないし、クロック船長が遊び半分に提案したものだったから、仰々しく考える必要もないと判断しての、ルイスの最終決定だったのだ。ラギルニットが、船長としての矜持を持ちはじめたようだったので、それを尊重した結果だったのだ、が。
 心配そうなルイスの口調に気づいて、ホーバーは笑って首を振った。
「いや、ラギルとルイスで決めたんだろ? 俺を通す必要はない」
「悪かったな。お前も忙しそうだったから、俺もいいかと思って。それに、今回は妙にラギルがやる気満々でな。それなら、と」
 その言葉にホーバーは改めてラギルニットの小さな背中を見つめた。ラギルニットは振りかえる様子もなく、話に加わる様子もなく、じっと望遠鏡を覗いている。
 やはり不自然だった。
 そういえば、ラギルニットと随分話をしていない気がする。ホーバーはいつも非番のときには船長室で休んでいるので、ラギルニットとはほとんど四六時中一緒にいるようなものだ。今回はクロック親子から逃げまわっていたので、船長室にはほとんど戻っていない。
 何かあったのだろうか。
 気に掛かった。だが、いずれにしても舵手が最終決定を出したのならば、ホーバーに異存があるはずもない。
「停船、完了!」
 甲板上からラギルニット船長へ報告が入る。ラギルニットは「うん、ありがとう!」と労をねぎらって、やはり目を合わせないようにルイスに声をかけた。
「ルイス、停船完了だよ」
「……はいよ。お疲れ」
 さすがにルイスも違和感に気づいたようで、声に戸惑いが滲んでいる。
 その時、軽い足音がして、今度はシャークが舵台にあがってきた。三人で一斉に振りかえると、シャークは目をぱちくりさせた。
「何スか? びみょーな空気が流れてるっスよ?」
「え、そう?」
「夫婦の痴話げんかの最中に、気づかず入ってきちゃった家政婦の気分ス。あたし、見ちゃった……!」
「どんなだ」
 シャークは丸眼鏡の奥でにししと笑って、ホーバーの脇にしゃがみこんだ。
「ちわっス、ホーバー。停船したっスね?」
「シャーク。マヤメナが近い」
 端的なホーバーの指摘に、シャークはひとつうなずいて、海図を覗きこんだ。
「そうっスね。南下指令が出たとき、多分そうなると思ったんスけど。でも予想よりも陸地が遠いっス。行っちゃうもんだとばっかり……何スかねぇ?」
「マヤメナに何かあるのか?」
 シャークの台詞はまるでクロック船長の「面白いもの」をある程度予期していたようで、ルイスは不審げに聞いた。シャークは眼鏡の下から、伺うようにホーバーを見下ろす。ホーバーは険しい眼差しをシャークに返した。
「あ、クロック船長出てきた!」
 ずっと望遠鏡を覗いていたラギルニットが声を上げた。
 三人は立ち上がって、柵越しに船の在所を肉眼で確認する。
 ハングリー・キング号は左舷側のわずか前方近くに停船していた。
 船長室の上甲板に、確かにクロック船長が登ってゆくのが見えた。

+++

 停船の情報は、瞬く間に船内に広まった。
 クロック船長の動向にきわめて過敏になっている船員たちは、「ぬぁ!?」とか「ひぎゃ!」とか妙な奇声を上げて、どたばたと甲板へと走り出した。
 あいつがホーバーに何かしたら、斧投げつけて、鎖巻きつけて、海に投げ込んで、呼吸が持たなくなったところで引き上げ、ふはははは生意気なことばかりするからそうなるのだ馬鹿者めが、と罵って、鎖をぶんぶん振り回し、陸地の方まで投げ飛ばしちまえ! と思っての慌てようだったのだが、他の船員と目が合った途端に我に返り、「ち、違ぇ! 急いでねぇ! 俺はちっともホーバーのクソ野郎のことなんか心配してねぇ!!」「お、俺もだボケェ!」と何故か言い張り、唐突に亀の歩みで床を這いだした。
「何だこりゃ」
 廊下で繰り広げられる船員たちの狂乱ぶりを、一番後ろから眺めて、ガルライズは顔を引きつらせる。床をゆっくりと這いずる船員たちのせいで、甲板までの道が大渋滞だった。
 ふと、あきれ返ったその目に、食堂でたたずむデトラナの姿が飛びこんできた。

「どもー、お嬢様。何してらっしゃるんで?」
 床をじっと見つめていたデトラナは、ハッと顔を上げた。
 振りかえると食堂の入り口に、いつかの初夜を邪魔してきた金髪の男が立っていた。確か名前は、ダラだか、ガルだか――そう、ガルライズ。
「あの時の無礼者。気軽に声をかけないでくださらない?」
「あらま、ごめんあそばせ」
 そう言いながらも一向に去る気配のないガルライズに、デトラナは小さく吐息をついた。
 バクスクラッシャーの船員に、聞いてみたいことがあった。今まで下賎と侮っていた彼らに、問いをぶつける気になるなんて、どうかしている。そうは思うが聞かずにはいられなかった。デトラナは深海色の美しい瞳をふっと伏せる。
「……ホーバー様ってどんな方ですの?」
 ガルライズは眉を持ち上げ、何をいまさら、と笑った。
「見たまんまの男ですとも」
「分かりにくいんですのよ。人を馬鹿にしていたかと思えば、いきなり気安い口調になったり、優男かと思えば、妙に剣の腕は立ったり……奇怪な男ですわ」
 彼女のほっそりとした褐色の爪先の先には、先ほどホーバーが薄っすらとつけた床の上の刀傷があった。歪んだ正円に、海の女神カラの名、そして彼自身の名前――ホーバー。
 腰に下げたカトラスの柄を落ち着かなげに指で撫ぜ、デトラナは目を細める。
「そう思うのは、やっとあんたがホーバーに興味を持ったからじゃない?」
 思いがけぬ一言に、デトラナは怒りの篭もった眼差しをガルライズに突きつけた。
 だがガルライズは平素の軽薄な表情を消し、真顔でデトラナを見つめていた。
「いい男だよ、ホーバーは。お前らシーパーズにはもったいない」
 鋭い眼差しが、デトラナを捕らえて薄っすらと笑う。
「欲しいなら、“力づくで奪って”みろ。それ以外の手段を使っても、俺たちが必ず阻止する。たとえ、幾万の艦隊を相手にしようとな」
 デトラナは目を見開いた。
 ガルライズはそれ以上話すことはないとばかりに、片手をひらりと振って身を翻した。
「お、お父様だって、そうですわ!」
 去ってゆく背を追いかけて、デトラナはとっさに反論を口にしていた。ホーバーが受けている絶対の信頼を目の当たりにして、憤怒に似た悔しさが込みあげてきた。
「船員たちから厚い信頼を受けてますもの! 一身に尊敬の念を受け、恐れられながらも絶対の忠誠を誓われて……ホーバー様など足元にも及ばぬほどに!」
 ガルライズが足を止める。
「強い、とても強いお父様。恐ろしいと幾度となく思ってきた。けれど幼い頃から慕っておりました。ずっと、ずっと尊敬を――!」
『まだ、なんだというのかの。わしはもう随分と待ったぞ、可愛いラナや』
 クロックの冷たい目。たった一言で突き放された。もうお前には期待などしていないと。
 デトラナは悲鳴のような声を上げた。
「私を、認めてほしかったのに……!」
 涙が、溢れた。
 止め処なく流れた熱いそれは、頬を伝って床に落ちる。デトラナは両手で顔を覆い隠した。
 ――そうだ、ずっと悔しくてたまらなかった。敬愛してきた父に、他船の副船長を夫に迎え入れろと言われた時には、喜びよりも深い悲しみを覚えた。
 幼い頃より剣の腕を鍛えてきたのに。身に染みついた彼女の剣戟に適う男など、周囲には一人もいなかった。ひとえに、ただひとえに父に認められたい、その一身で厳しい鍛錬に耐え忍んできたというのに。
 父は成長したデトラナを認めるよりも、他船の、彼女が顔も見たこともない男の方を欲したのだ。あげく剣の腕ではなく、女であることを武器に、その者を夫に迎えろと。
 クロックは、デトラナを認めなかった。
 決して。どれほど、努力してたって、ただの一度たりと――。

 あなたを見限ったクロックを、自分の手で見返したくはないか?

 デトラナはハッと息を詰めた。
 足元には、タネキア大陸のとある儀式に則った刀で付けられた傷跡。
 真円に、海の女神カラの名前、そしてホーバーの名前。
 食い入るように模様を見つめるデトラナに、ガルライズはふっと笑って再び手を振った。
「姫君の挑戦、お待ちしてまーす」
 やがて去ってゆく足音を意識の遠くに聞きながら、デトラナは静かに呼吸を整えた。

+++

「バク……ク……シャー……君!」
 多少距離があるので、クロック船長は大声で叫んだ。
 しかし距離が遠いこともあるが、何より帆の立てる音と波の音とに紛れてしまって、大声でもうまく伝わってこなかった。
 一斉に首を傾げるバクスクラッシャーの船員に気づいたのか、甲板上のシーパーズの船員たちが、船尾から中央甲板、中央甲板から船首、船首から舳先の先端へと、次々とバケツリレーで声を運んできた。
「バクスク……シャー……諸君!!」
「バクスクラッシャーの諸君!!!」
「バクスクラッシャーの諸君!!!!」
 耳を澄ませていたバクスクラッシャーの船員たちの下へ、相当な時間差をかけて声が届く。舵台のルイスは柵上のラギルニットを見上げ、儀礼的に頭を下げた。
「……えー、船長。バクスクラッシャーの諸君、とクロック船長は言っています」
「……りょ、了解」
 そう話している間にも、次々と言葉がバケツリレーされて来る。
「ようこそ、我が面白いものの鑑賞の海へ!」
「船員たち諸君をみな甲板に集めたまえ!」
「今から我がシーパーズが素晴らしい余興をご覧に入れましょうぞ!」
「ようこそ、我が面白いものの鑑賞の海へ!」
「今から我がシーパーズが!」
「甲板に集めたまえ!!」
「船員たち諸君を!!」
「……うわぁあ、頭がこんがらがるよー!」
 リレーされてくる以前の声も微妙に聞こえているので、順序がこんがらがってきた。
「ふふん。ラギルちゃん、あたしに任せてちょうだい」
 不意に、甲板上で無意味に海上で洗濯物を干した場合、どれだけ塩分が衣服に含まれるかを化学的に研究していたメルが、懐から巨大な円錐形の物体を取り出した。ピンク色の色眼鏡を鼻の頭に乗せると、大きく口を開いて、クロック船長目掛けて大声を張り上げた。
「ふははははは! 我が偉大なる研究は、海よりもなお深き知恵を皆の者に与えるのだ! 思う存分メル様お手製の、声がヘリウムガス吸ったみたいになっちゃうよ拡声器を使用し、速やかにメル帝国に万歳三唱を唱えるが良い! ――はい。」
 メルはいつもの無茶苦茶な口上を垂れると、隣にいた船員に拡声器を渡した。
 受け取った船員は、拡声器があるならそれを使えばいいのに、と心底思いつつ、メルが怖いので素直に受け取って、口を開いた。
「え、えっと……ふはははは……我が偉大なる研究は……ヘリウムガス……略。はい。」
 とっても省略された口上文と一緒に、拡声器が次々とバケツリレーされてゆく。舳先で待ち構えていた船員が拡声器の口部分に縄を巻きつけ、ハングリー・キング号へと思い切り放り投げた。そしてそれを見事にキャッチしたシーパーズの船員は、恭しく階段を登り、上甲板のにいるクロック船長へと進呈した。
 クロック船長はもたもたと拡声器の使い方を試行錯誤した末、こちらに向けて叫んだ。
『ィイ偉大な隣人のおばあちゃんは、へちまの栽培で忙しい、略、とはいったいどういう意味だ、このいかれた変態科学者めがァァアアアア……!!!』
 意味不明な文章となって伝わったらしいメルの口上に憤ったクロック船長が、拡声器に向かって張り叫ぶ。船と水面を震わせる程の爆音に、バクスクラッシャーの船員たちは全員揃って甲板に卒倒した。ヘリウムガス吸っちゃったみたいな声になってる上に、ハイリング音付きだった。
『せ、船長、それは拡声器らしいんで怒鳴らなくてもいいです。普通の声で喋ればそれで』
『……むむむゥウウウ!?!?!?』
 耳を押さえて舵台をのたうっていたホーバーたちは、柵を支えに何とか立ち上がった。
 今の大音量で船内にいたバクスクラッシャーの船員たちも全員、ぞろぞろと甲板へ現れた。一番最後に出てきたガルライズが、鼻歌まじりに舵台に登ってくる。ホーバーとシャークの脇に立つと、二人分の目線に真顔でうなずいてみせた。
 高みの見物を決めこんだのか、クロルまでが上がってきた。無言のままに腕を組み、ハングリー・キング号をじっと見つめる。
 ホーバーは、遠目にも薄っすらと笑って見えるクロックを睨みつけ、呟く。
「さて、何を仕掛けて来る。クロック」

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