第六話



(黒
 暗
 閉じる
 目を 閉じてる
 ・・・・・・・
 硬い地面
 砂埃が ない
 潮っぽいにおい
 高くて 平らで 凹凸のない・・・塔?)
万要(マカ)は目を醒ました。
目を開くと目の前に、小さな細い手足と胴と丸い耳とちょろりとしたしっぽのナニカが居た。
「やぁ、僕ミッキー!」
口が動いてないのに声がしゃべった.
「・・・・・・!?」
びっくりして目を見開く。
  パリッッ
思わず小さく術が発動。
空間に一瞬青白く雷光が走った。
「僕ミッキー♪
 空から降っこって来た、君は天使?」
「わ、わたしは万要!
 志陰儀(シオンギ)の万要。”風”と”天”の法術師だ」
「マジシャ――――魔法使い?」
不自然に一瞬音声が切り替えする感じに切れて、つながった。
そこで万要は、自分の頭が誰かの膝の上にあることにようやく気が付いた。
“ミッキー”の体を掴んでいる手をたどると頭上に白黒縞々の帽子をかぶった青年の顔が微笑んでいた。
「可愛いお嬢さん、ここがどこだか知らないかな?」
青年は“ミッキー”と同じ声で訊いた。


塚本は本能的にその強引な力に抗おうと、引き倒される形になっている足を地面につけるためにつかまれた腕をがむしゃらに振り回した。
横から彼の腕を引いた人物はすでに背後へと回っており、視界に入るのは骨ばった二つの手だけ。
「ッくしょう!!」


司貴、紅、浅海の三人はあてもなく見知らぬ街を歩いていた。
それを最初に見つけたのはスナック菓子を放りながら食べていた司貴。
「・・・?なんだろうねぇ、あれは」
「鳥だぁ」
「飛行機かもしれないよ」
楽しげなのか眠たげなのかわからない浅海とのんびりと会話を交わしていると、ようやくその存在に気が付いた紅が、二人の見ている頭上――空を見上げた。
「・・・スーパーマンやん」
「ああ、やっぱりそうくる?」
お約束だよね、と司貴。
三人の視線の先には、大きなマントをなびかせて少し曇ってきた空を飛行する人間の姿があった。
「ん〜・・・?」
”スーパーマン”は不意に前進を止め、空中にぴたりと静止した。
「なんや?」
長くて大きなマントが風に大きく揺らめいて、その間から二本の腕が三人のほうに向かって突き出される。
「あ、可愛いおんなの―――」
司貴の言葉は半ばで突然の大音響にかき消された。
鼓膜を突き破りかねないそれは、同時に青白く世界を一瞬にして消した。



written by 野村桜香 2002年11月21日公開