影の円舞曲
11
宴のあとは、しんと静かだ。
深夜まで騒いだ船員は、千鳥足ながら余裕のある者は船室に引っこみ、そうでない者は甲板のあちこちに大の字に寝転がって、酔いつぶれて眠っている。
聞こえてくる音といえば、船体に波がちゃぷちゃぷと当たる音、船の軋む音、船員たちのいびき……それだけ。
キャムはドレスを着たまま、舵台の階段に座り、片足を浮かせた。
爪先に引っかけた、可愛らしい猫足ヒールの靴。
足を前後に揺らすたび、脱げたかかとの辺りがぶらぶらと揺れる。
足が痛い。狭いところに押し込められていた爪先は悲鳴をあげ、摩れたかかとは皮がむけ血が滲んでいる。足の裏も、土踏まずらへんが石のように固くなって、座っているだけでもずきずきした。
――溜め息も出ない。
あれから、キャムはたくさんの船員たちと踊った。
五曲までシャークを待ったところで、ホーバーがキャムに教えにきてくれたのだ。船内で問題が起きて、船大工たちが緊急の修理作業をしている、と。若い船大工や、ほかの船員が気にせず舞踏会を楽しめるよう、誰にも言わずの作業らしかった。
だから、キャムは最初の一曲をホーバーと踊った。すっかり出遅れてしまったキャムが、舞踏会の輪に加われるようにきっかけをくれたのだ。
そのときの一曲は、テンポの速い、陽気な曲で、キャムの躊躇を吹き飛ばしてくれた。
二曲目は、最初に思いがけず誘ってくれたレックと。よりにもよって、しっとりとした雰囲気のある曲だったので、お互い赤面してなんだか変な踊りになってしまった。
それから、ファーやグレイ、サリスとも踊ったし、なぜだかクロルとも踊った。
楽しかった。
ものすごく楽しくて――ものすごく虚しかった。
(こんなとき、クロル姐みたいな余裕のある女性なら、みんなが気兼ねなく舞踏会を楽しめるように、嫌な役を買って出た船大工たちを……シャークを、「偉いよ」って褒めるんだろう……)
キャムは足を揺らすのをやめ、疲れ切った爪先を見つめる。
(「ありがとう」って。「あんたらがこっそり頑張ってくれたおかげで、みんなは舞踏会を思う存分に楽しめたよ」って)
親指がずきずき痛み、キャムは唇を引き結ぶ。
(修理なんか放っておけばいいのに。私と踊ってくれたらよかったのに。約束したのに。嘘つき。そんな風に思う私は、やっぱり全然いい女じゃないんだろう……)
キャムは脱げた靴のかかとを足にはめこみ、よろめくように立ち上がる。
寝よう。
そう思って階段を下りかけたところで、船室に続く扉からシャークが出てきた。
シャークは深々と溜め息をつき、凝った肩を回して、星空いっぱいに伸びをする。やがて甲板を歩くキャムに気づき、緩んでいた表情を改めた。
「キャム」
名を呼ばれる。
キャムは無理やり笑顔をつくる。
「お疲れ。大変だったみたいね」
シャークは丸眼鏡の奥で力なく笑った。
「いやあー、大変だったっス。よりによって、こんな時に壊れなくてもいいのにねー」
キャムは無言でうなずき、そのままシャークの横を通りすぎて船室に入ろうとする。
そのキャムを、シャークが「あ」と呼び止めた。
肩越しに振りかえると、シャークが申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまなかったっス。間に合えばと思ったんスけど……せめて自分で説明に来たかったんスけど、手が離せる状況じゃなくて」
キャムは立ち尽くした。
――シャークが、謝ることじゃない。
シャークはやるべき仕事をしただけだ。みんなのために。
「……ううん。シャークや船大工のみんなが頑張ってくれたから、みんな舞踏会を心から楽しめた。ありがと」
キャム個人の落胆を無視すれば、心の奥では本当にそう思っている。だからそのまま口にした。けれど……それはなんて模範的な答え。なんの感情も言葉に乗っていかない。
「そっか! 楽しめたっスか。ならよかった!」
シャークはほっとしたように相好を崩した。
「うん」
本当によかった。ホーバーとクロル姐のダンスも素敵だったし、バザークはかわいそうだったけど、ほかの船員たちもみんな心底楽しげに笑っていた。
よかった。……よかった。
気持ちがどこか遠くにあるみたいだった。けれど、つくり笑顔のキャムとは対照的に、シャークは心から「よかった」と思っている笑顔で続けた。
「キャムも踊ったんスか?」
「――踊ったよ。みんなと。楽しかった」
声が硬い。でも、シャークは気づかない。
「おお、そうっスか!」
シャークが嬉しそうに笑う。
「キャムが楽しく踊れてよかったっス!」
本当に、こいつは、無神経だ。
うなだれた頭が小刻みに震える。太ももの脇で握りしめた拳が硬さを増す。
キャムは歯を食いしばり、絞りだすように言った。
「……うるさい」
「え?」
「うるさい、ばかあ……!」
叫び、顔をあげた瞬間、涙がぼろぼろと零れ落ちた。
歯を食いしばって涙するキャムを見て、シャークがびっくりした顔をしている。
「……っ」
キャムは化粧が崩れるのも気にせず、拳でぐっと目許を拭い、そのまま身を翻して船内に飛びこんだ。暗い廊下を駆け、階段を下り、船員たちが寝静まった二層の廊下を走って自分の部屋に飛びこむ。
同室の船員たちはみんなすでに眠っていた。よほど疲れたのか、キャムが帰って来たことにも気づかない。
キャムは、クロルが丁寧に結ってくれた髪を解き、ドレスを脱ぎ捨てて下着姿になり、ヒールの靴を蹴飛ばすように放り捨てた。
(シャークは、なんにも分かってない!)
キャムが舞踏会をどれほど楽しみにしていたか。どれほど緊張して待っていたか。どんな思いでこの日を迎えたか。
(なんにも分かってくれない!)
お洒落をするなんて、本当は顔から火を噴くぐらい恥ずかしくて。高いヒールの靴を履くのは、痛くて辛くて怖ろしくて。でも、シャークが「きれいだね」「大人っぽくなったね」って褒めてくれるかも、とそう思ったから。
なのに、シャークは分かってくれない。
キャムの苦しい恋心なんて、ちっとも。
「――そんなの、当たり前じゃない……!」
キャムは子どものように泣きじゃくり、止まらない涙を両腕で拭った。
「だって私、伝えたことないもの」
自分の心を棘だらけの茨で囲って、隠して。
「伝えようとしたことなかった……っ」
それなのに「気づいてほしい」だなんて虫が良すぎる。
また繰り返しだ。もうこんなことは嫌だ。
知ってほしい。どんな想いでシャークが来るのを待っていたか。キャムがどんな想いで他の船員たちと踊ったのか。それを「よかったっスね」なんて言われてどれだけ傷ついたか。
(背丈だとか、顔だとか、そんなのもうどうでもいい)
知ってほしかった。
好きなのだと。
些細なことで悩み、腹を立て、世界がめちゃくちゃになってしまうぐらい、
私、シャークが、好き。
キャムは普段着に着替えて、船室を飛び出した。
甲板では、シャークが酒樽に浅く腰かけて、ぼーっと星空を見つめていた。
「シャーク!」
廊下から甲板に飛び出したキャムは、声を張り上げた。
シャークはびくっとして樽から下り、捨てられた仔犬みたいな顔で駆け寄ってくる。
「キャム、さっきは――」
「踊って」
言葉を遮り、キャムは手を差し出す。
シャークは面喰ったように目を丸くした。
「えっと……」
「踊ってよ」
丸眼鏡の奥で、シャークの双眸が不思議そうにキャムを見つめる。
今、シャークの目に映るキャムは、普段通りのキャムだ。美しいドレスや大人の化粧で着飾ったりなどしていない。普段着のまま、髪の毛もぼさぼさのまま。けれど――シャークはなにかに圧倒されたように、無意識といった様子でキャムの手を取った。
そして、二人は踊りはじめた。
傍から見ると、たいそう不格好な踊りに見えたろう。猫足ヒールの靴を脱ぎ捨てたキャムは悲しいぐらいに背が低く、長身のシャークはキャムに合わせるために背中をみっともなく丸めないといけなかった。
音楽だってない。だからリズムがうまく取れない。二人の動きはまるで噛み合わず、しょっちゅう足を踏み合ったり、体が変な風にぶつかったりした。
なんて滑稽。
最初に予想した通りだ。幼い娘が、父親にダンスの練習を付き合わせているみたい。
けれど――どれぐらい踊ったころだろう。少しずつ、少しずつ、二人の動きが噛み合いだした。流れるようなステップとはいかないが、ぶつかることはもうなく、互いの足を踏むこともなくなった。キャムは込みあげてくる涙を堪えるために唇を引き結び、ふと、足元に落ちた影に視線を落とした。
甲板には、頭上で揺れるカンテラの明かりに照らされ、二人の影が伸びていた。
どきりとする。
思い出すのは、数日前の晩のこと。今宵の舞踏会で帝国貴族が踊るようなダンスを踊りたい、とホーバーに教えを乞い、船員みんなが夢中になってダンスを学んだ。
キャムは、シャークと一緒に練習をした。楽しかった。けれど足元に落ちた影を見たら、長々と間延びした影は二人の身長差をより際立たせていて、キャムは心を深く傷つけたのだ。
(それが悲しくて、悔しくて、シャークに八つ当たりをした……)
だが、今はどうだろう。光の当たり方が変わったのか、影の形もあの晩とは違った。
くるり、くるりと回るたび、二人の影の長さが正反対に変化する。あるときは、キャムの影がずんぐりと縮まり、シャークの影が大木みたいに伸びあがる。あるときは、キャムの影が大木のようになって、シャークの影が小人のようになる。
そしてある一瞬、二人の影がちょうどいい身長差になった。
すらりと伸びあがったキャムの背丈は、少しだけ縮んでしまったシャークの肩の高さになる。理想通りの姿になった二人は、仲睦まじく身を寄せ合い、軽やかに、優雅に踊りだす。かつて幼いキャムが頭の中に描いた、故郷の島で開かれた舞踏会で踊る貴族たちのように。
(すてき)
涙の滲んだ瞳を微笑ませ、影絵の中の自分たちを見つめる。
一筋、頬を涙が伝い落ち、キャムはふと踊るのをやめた。
「……キャム?」
突然、止まったキャムに気づき、シャークも戸惑ったように足を止める。
キャムは足元に落ちた理想通りの影を見つめたまま、口を開いた。
「私、シャークが好き」
一息に、言った。
「好きなの」
震えた声が、夜の静寂にそうっと溶けこむ。
静けさを意識した途端、ふわふわとどこか遠くに漂っていた現実感が急激に戻ってきて、全身が一気に熱くなった。
(言った。伝えた。伝えちゃった)
うつむいているから、シャークの反応がまったく分からない。
驚いている? 嫌な顔をしている? 変なものでも見る目で見下ろしている?
どうしようもない気持ちになって、なにかしらの反応を待つキャムの耳元に、嬉しそうな笑い声が届いた。
「なんスか、突然。やだなあ、俺もキャム、超好きっスよ!」
「――違う! そういう意味じゃなくて!」
キャムは反射的に顔を上げ、きょとんとしているシャークを真っ直ぐに見つめた。
知らず瞳が震える。緊張で潤んでしまう。それでも逸らさずに、シャークの丸眼鏡の奥にある眼を見つめる。
「私はシャークを男の人として……好きなの」
シャークのちゃらんぽらんな笑顔が凍りついた。
「え?」
キャムは恥ずかしさのあまり、顔ばかりか、うなじまで朱色に染めて立ち尽くした。
もうこれ以上はなにも言えない。シャークがやっぱり理解できなくて、一生誤解したままだったとしても、もう訂正する勇気はきっと持てない。
(これが、着飾らない私の精一杯)
キャムは唇を引き結び、蛇に睨まれた兎の気分でびくびくとシャークの反応を伺った。
と、硬直していたシャークの日に焼けた顔が、だんだんと赤く染まって来た。
(あ、通じた……?)
そう察した直後、シャークが甲高い声で悲鳴をあげた。
「えええええ―――――――!?」
「……っちょ、う、うるさい……っ」
盛大に驚かれ、キャムは極限の恥ずかしさの中で慌てふためいた。甲板には、二人以外にも船員がいるのだ。大の字になって、いびきをかいて眠り呆けているとはいえ、いつ起きてくるとも限らない。
「え? え? なんスかそれ、え? なに言ってるんスか! なんのドッキリ!? なんの引っかけ!? こわっ! 舞踏会こわっ!」
「ぶ、ぶぶぶ舞踏会ぜんぜん関係ないから! わ、私が……た、ただ……っ」
「ただ!?」
「ただ……っただ――! ……っっっ」
なんの言葉も出てこず、ぱくぱくと口を開閉する。
(っていうか、そんなに驚くぐらい気づかれてなかったの!?)
気づかれているとは思っていなかったが、舞踏会で一曲目を踊る相手として誘ったとき、さすがに気づかれたのではないかと思った。あんなに顔を真っ赤にして、「踊ってくだひゃい!」なんて言ったりして……いくらなんでも気づかれたのではないか、と多少心配したりしたのに。
「鈍い!」
状況も忘れて思わず叫ぶと、シャークが「ええっ」と仰け反って驚いた。
「本当に? い、いつから!? なにそれ!? 冗談やめてほしいっス!」
「いつからって……か、かなり前から……って、そんなのはどうでもよくて!」
キャムはいったん言葉を区切り、ぎゅっと太腿の脇で拳を握りしめた。
「だから――私は、シャークがそうやって「冗談やめてほしい」とか、「馬子にも衣装」とか、「ちび」とか言うたびに傷ついてきたの」
「馬子にも衣裳って……え、オレ、そんなこと言ったっスか?」
あれ。言ってないっけ。妄想の中でだけだっけ。
キャムはぐるぐると目を回しながら、勇気が途切れないうちにと畳みかける。
「年は離れてるし、親子かってぐらい身長差があるし、シャークはクロル姐みたいな大人っぽい女性が好みなのに、どう考えたって私はその理想像からはかけ離れていて。だから、悲しくて……ごめんなさい」
キャムは勢いよく頭を下げた。
「いっぱいシャークを傷つけた。全部、八つ当たりだったの。だって、嫌だったの。シャークは大人で、私はいつまでも子どもで。それがすごくすごく嫌で。だから……ごめん」
性懲りもなく、また涙が溢れそうになる。そんな自分がみっともなくて、キャムはうつむいたまま目元をぐいぐいと拭った。
そうしてふたたび顔を上げると、シャークが、吹っ飛んできた本棚でも避けるような変なポーズで凍りついていた。その顔は見たことがないぐらい真っ赤になっている。
「……ちょ、待ってほしいっス」
「……なに」
「だってずっと妹みたいに思ってきたっス。八つ当たりって……様子がおかしいとは思ってたっスけど。心配してたっスけど。でも、どう考えても原因はオレで、でもそれは、オレが短気で口悪いもんだから、またなにか怒らせたんだろうな、オレが悪かったんだろうなーって反省してて。なのにキャムってば最近急に成長したみたいで、今日なんて別人みたいにきれいになっちゃって……そうか、兄離れしようとしてるのか、寂しいなーって思ってたところに、そんなこと言われたら、もーどうしたら――!」
妹みたいに思ってきたっス。
後半のぐだぐだした言葉はほとんど耳に入ってこず、ただ最初のその台詞だけがキャムの心の中にすとんと落ちる。
分かっていた答えだった。けれどやっぱり落ちこむ。
「そっか、妹……そうだよね」
妹みたいに、という言葉のあとで、「急に成長したみたい」とか「今日なんて別人みたいにきれい」とか、欲しくてたまらなかった言葉を貰ったことには気づかずに、キャムは足元に落ちた影をまた見つめた。
光の悪戯で、一瞬だけシャークにふさわしい背丈になった影絵のキャムは、また等身大に戻っていた。
でも――だからなんだというのだろう。
(変わりたい。今度こそ、本当に……)
もう、うじうじと悩むだけの自分ではいたくない。
今度こそ、自分自身が好きになれる「自分」を見つけたい。
少なくとも今夜、キャムはほんの少しだけでも前に踏みだすことができたのだ。
「……これからどうしたらいいか、教えてほしい?」
キャムはもう一度だけ涙を拭い、泣き笑いの顔でシャークを見上げた。
「え!? えーとー……」
シャークはなにを言われるのだろうと戦々恐々な様子で言葉を濁すが、キャムは気にせず、「余裕のある女性」に相応しそうな言葉を探した。
「今は妹でいいの。でもこれからは少しだけ、私のことを意識して。見た目はこんなだけど……これでも私、十七歳の大人の女なんだから」
シャークは絶句した。
トレードマークの丸眼鏡が、なにかの拍子に情けなげに斜めにずれる。
それがなんだか妙におかしくて、キャムは声を出して笑った。そして、ふたたびシャークに手を差し出した。
「もう一度、踊ってくれる? シャーク」
「……~~」
シャークはいよいよ変な呻き声をあげて天を仰ぎ、なぜか両手で眉毛をぼりぼり掻くと、覚悟を決めたようにキャムに向き直った。
丸眼鏡の奥で、意外に鋭い目が泳いでいる。キャムは微笑み、なるべく優雅に膝を折って挨拶をする。動揺しているのか、シャークは挨拶をろくに返さずに、差し伸べたキャムの手に触れた。
やがて、たどたどしく踊りはじめた二人を、甲板に落ちた影だけが静かに見守っていた。
それからひと月後。
「キャム! なんスか、この洗濯物の畳み方。雑っスよ、雑!」
「ええ? 細かいなあ……どうせ棚に突っこんだら形が崩れるんだから、それでいいじゃない」
「っかー! 分かってないっス。最初に畳んだときの皺は、変な風に残っちゃうんス。きれいに畳まないとみっともないことになるっス!」
「あーうるさいうるさい。小姑みたい」
バックロー号の甲板では、今日もキャムとシャークが兄妹よろしく口喧嘩をしている。
とはいえ、昔から当たり前のように繰り広げられてきた光景を、今さら船員の誰かが気にする様子はない。
――そう、それはバクスクラッシャーにとって、ごくごく当たり前の光景だった。
いったい誰が想像するだろう。
この二人の関係が、以前と少しだけ変わったことなんて。
「もーっ。洗濯物も畳めないんじゃ、女子失格っスよ!」
「あっそ。そういうシャークは女子合格ね。おめでとーぱちぱちー」
「なんスか、その態度。そんなんじゃ、嫁の貰い手がな、……っ」
唐突に、シャークが不自然な勢いで言葉を止める。
キャムはきょとんとし、まばたきをした。
「……と、ともかく気をつけるっスよ」
変な風に説教を終わらせて、シャークは洗濯物の山を抱えたまま踵を返し、慌てたようにキャムから遠ざかる。
去って行くシャークの背を見送るキャムの頬が、にわかに赤く染まった。
「意識しすぎ。……ばか」
二人の恋の円舞曲は、まだ始まったばかり。