小説(長編小説)ラ・ク・リ・マ|NO.006 8



 不遜な物言いに、倉庫内に集まったファミリーが色めき立つ。
 ウェイはそれらを敢えて視界に入れない。
 ただじっと、眼前のビューティ・フレデリックだけに意識を集中する。


「ウェイと僕とは、おもちゃを共同開発するビジネス・パートナー、という設定だ」
 ガイはベッドに寝転がってミッキーをいじくりながら、心底どうでもよさそうに言った。
 いったん見られたからにはなにも隠す気はないようで、サングラスをつけることもなければ、ミッキー越しに語りかけてくるという遠回しな拒絶を示すこともない。
 ただ、昔からの友人が部屋に遊びにきたかのような気安さで、ガイは語る。
「ここに連れてこられた中古屋は全員、ビューティ・フレデリック、つまり僕の一番上の兄さんの「入社面談」を受けた。生き残ったのは何人だっけな……ともかく、何人かが生きて面談を突破し、フレデリック・ファミリーの一員になることを同意したよ」
 床に置かれた一抱えもあるクッションに座ったウェイは、眉をひそめる。
「……そうか」
「君は死体としてゴミ捨て場に捨てられていた。ニナに頼まれ、君をゴミ捨て場から部屋に引きこんだまではよかったけど、それを、兄さん専属の気持ち悪い運転手に見られてね。とっさに、君は僕の「友達」で、「おもちゃの共同開発者だ」ってことにしたんだ。ここに連れてこられたのはなにかの間違いだから、君の身柄は僕が引きとる、と。でも、色々あってねえ……君にも「入社面談」を受けてもらわねばならなくなった」
 ウェイは額を片手で押さえて、眉間に皺を寄せる。
「つまり、俺はお前の「友達」になって、「おもちゃの共同開発者」になった上で、さらに「フレデリック・ファミリーの一員」にならなければならない、ということか」
「そういうこと」
「……ファミリーの一員になることを拒否したら?」
「死ぬんじゃない?」
 ガイはあっさりと言って、能天気に笑うミッキーに「死ぬよねえ? ミッキー」と朗らかに笑いかける。
 ウェイは状況に似合わぬガイの無邪気な笑顔に、心底からの溜め息をつく。
 いったい、どうしてこんなことになったのだろうか。
 散々、フレデリック兄弟と中古屋との抗争には関わらずに生きてきたというのに、いまや渦中も渦中にいるとは。
 だが、溜め息をつく間にも、脳裏をよぎるのはニナの顔だった。
(帰らなければ)
 どうしてそう思うのかは分からない。
 食事もできずに、痩せ、朽ちて、木乃伊のようになるなんて、保護者として目覚めが悪いだけ――そう思うが、ニナの身よりも自分自身の身の方が危険にさらされているこの状況下では、ただ自分にそう言い聞かせ、無理やり納得させているだけのような気もする。
(大した時間、一緒にいたわけじゃない)
 ニナの素性も、目的も、本当の名前すらも知らない。
 むしろ、彼女が人間であるかどうかすら疑っている。
 それでも、なぜだか、帰らねばと思う。
 心の深いところから水泡が湧きあがるように、そう感じている。


 僕はニナから君のことを助けるよう頼まれたんだ。


 嬉しい、だなんて。
 我ながら意味が分からない。
「ところで、「おもちゃの共同開発」っていうのは、なんなんだ?」
 深く考えるのが嫌になって問いを変えれば、ガイは少し考えてから身を起こし、ミッキを両腕に抱いてあぐらをかく。
 ウェイを思案げに眺めて、まるで答えを求めるようにミッキーを見下ろす。
「僕は、フレデリック兄弟のひとりという立場を隠し、F.A.OシューワルツXTにおもちゃクリエイターとして籍を置いている。そっちの方が本業なんだけど……君はそうは思わないだろうねえ」
 ウェイは呆気にとられた。
「なんだって? F.A.Oシューワルツ!?」
「……そうだけど」
「F.A.O.シューワルツってあれだろ、『ホーム・アローン2』のロケ地としても使われた老舗のおもちゃ屋だろ! そこのクリエイター!? お前が!?」
 ガイは目を丸くし、ミッキーと顔を見合わせた。
「僕もあの映画は見たことあるけど、1しか見たことなかったな。2に出てくるんだ、あのおもちゃ屋。へえ」
「あの映画、好きなんだ。賢い子供が、大人げない泥棒どもを、こてんぱんにやっつっける。懲らしめ方がだいぶえげつないけどな」
「そうかなあ? 僕は、あの泥棒たち、もっと悲惨なやり方で殺してやった方が世のため人のためだったんじゃないかなーと思ったけど」
「……あー」
 そういえば、こいつは現代の大悪党フレデリック一味の、残酷無比な三男坊なのだった。
 おいおい、忘れるなよ。
 ウェイはいまだ血の巡りが悪いらしい頭を抱える。
 ガイは映画の内容を思い出すように天井を見上げ、ふと小首を傾げた。
「そうそう。君なら分かる? 主人公が、鏡の前で父親が使っているなにかの容器からくすねた液体をほっぺに塗ったあとに「あー!」って叫だろう? あのシーン、今でも意味が分からないんだ。あれはなんだい?」
「ああ。あの液体、現代にないよな。髭を剃ったあとに塗るもので、メンソールの成分が入っていたんだ。父親がいつもやっていることを何気なく真似したら、頬に強烈な刺激がきたもんで、ケビンは驚いたわけだ。大人には心地いい刺激なんだろうけど……って、それはどうでもいい、今はおもちゃクリエイターの話だ!」
 つい饒舌にうんちくを垂れるウェイだったが、話をもとに戻すと、ガイはつまらなげに唇を尖らせた。
「そんなに驚くことじゃない。十歳のときに、F.A.O.シューワルツXTにクリエイター登録をした。それ以来、百を超えるおもちゃを開発し、店舗販売してきた。有名どころだと、サイバーキッカーとか、グラフィック・デジオネスかな。あれは、今でもバージョンを変えて、売られている」
 今度こそウェイは絶句した。サイバーキッカーに、グラフィック・デジオネス。七年前に発売されてから、今でも不動の人気を誇るおもちゃだ。LENOにも型落ちの中古品を求める依頼は多い。
 次から次へと新商品が出ては、型落ちの品が「機械の墓場」送りになる現代社会において、七年前に発売された商品が今でも発売されつづけているなど、とんでもない偉業だ。
 それを、目の前にいる青年が――悪魔のように残酷なフレデリック兄弟のひとりがやってのけたとは。
 だが、ガイは浮かない顔だ。
「昔の話だ。アルカトラズ監獄を脱獄してからこっち、おもちゃづくりを再開したけど、前みたいに楽しいおもちゃがつくれない」
 細めた眼差しは、道に迷った子供のように途方に暮れて見えた。
(わかりやすい)
 ウェイは改めて感嘆する。
 目に表情があるということは、これほどまでに人の心を露わにするものなのか。ガイが心の底からおもちゃがつくれないことに悩み、自分を情けなく感じているのが、言葉なしに伝わってくる。
「『ビッグ』だな」
「それも、ジャンク映画?」
「そう。十二歳の少年が移動遊園地に遊びに行って、コインを入れると願いを叶えてくれるという不思議な機械を見つける話」
 少年は「大人になりたい」と願い、翌日、その通りになる。大人になった少年は、ひょんなことから、おもちゃ会社の開発会議に出席することになるが、頭の固い大人たちが難しい顔で「このおもちゃは売れるか否か」と議論を交わす中、いともあっさりと、「このおもちゃはつまらない。こうしたらもっと面白くなるのに」とおもちゃの問題点を指摘し、子供が喜ぶおもちゃを生み出してしまうのだ。
 ガイは黙ってあらすじに聞き入り、やがて静かに目を細める。
「そう……なら、僕が楽しいおもちゃを作れなくなったのは、僕が大人になってしまったからか」
 ウェイは首を傾げる。
「お前、何歳だ? ……聞いていいならだけど」
「さあ。多分、十八ぐらいだと思うけど」
 曖昧な答えだが、社会という枠組みから外れた裏通りに生きる者にとっては、年齢はさして重要ではない。誰に聞いても、だいたいこんな適当な答えが返ってくる。
 ウェイはわずかに躊躇ってから、さらに問いを重ねてみることにした。
「なぜ、おもちゃのクリエイターに?」
「君はなぜ、中古屋に?」
 聞き返され、ウェイは言葉に詰まる。
「……得意分野だ。飯を食うために選んだだけの職だ」
「夢のない答えだねえ」
「そういうお前は、たいそうな夢を持っているんだろうな、フレデリック」
 ガイはひょうきんに眉を持ちあげると、ふっと楽しげに笑った。
 言葉としての返答はない。
 だが、その微笑は「YES」と答えていた。
「まあ、そういうわけだ。君は、思うようにおもちゃを作れなくなった僕が、スランプ脱却のために協力を求めた中古屋というわけ。理解した?」
 ずいぶんと脱線したが――だいたい自分のせいだが、理解する。
 入社面談とやらでボロが出ないよう、与えられた情報を頭に焼きつけ、息をつく。
「その「入社面談」というのは?」
「面談の内容は、兄さんの気まぐれだろうから、僕には分からない。平たく言えば、兄さんがウェイを気にいれば、「合格」ということになるんじゃないかな?」
「どうすれば、気にいられる」
 ガイは楽しげに口端をゆがめた。
「生き残る気、満々なわけだ。結構だねえ。……そうだなあ」
 ふたたびベッドに仰向けになって、ミッキーを高い高いしながら答える。
「兄さんは、面白い人間を好む」
「なるほど。つまり、俺はあっさりと死ぬってことだな」
 皮肉たっぷりに言うが、しかしガイは笑わなかった。
「そうでもない。多分、君は君のままで面談に臨めば問題ない気がする」
「なぜ」
「僕が、君をそこそこ面白いと思いはじめているから」
 何食わぬ顔で言って、ガイは「えいやー」とミッキーの片腕を持ちあげた。


 ガイの真意はまるで読み取れなかったが、いずれにせよ、ウェイには「自分らしく」ふるまう以外の術がない。
 ビューティ・フレデリックは、ウェイの嘘など容易く見抜くだろう。
 ならば、ウェイにできるのは本心をそのままに語ることだけだ。
「ブラザーコンプレックスがなんだって?」
 ウェイの不遜な態度はファミリーの怒りを招いたが、ビューティ自身はなぜか楽しげだ。
 だが、ビューティのその余裕は、むしろウェイには恐ろしく感じられた。
「ブラコンだろ。弟が自分で選んだビジネスパートナーを、兄貴にすぎないあんたが品定めをしようって言うんだから」
「この入社面談を提案したのはジョニーなんだがなあ。まあ、否定はしないぜ。むしろ全力で肯定しようじゃねえか!」
 突然、ビューティは丸太のような両腕をがばっと広げ、天井に向かって叫んだ。
「そうだ! 俺は、ふたりの弟をこよなく愛している! 目の中に入れても痛くないほどに! なんならケツの穴に入れても痔にならねえほどによー!!!」
「……やめろ」
 ぼそりと壁際に控えていた男が呟いた。
(この声、聞き覚えがある)
 先日、ガイの部屋で、ドア越しに話しかけてきた声である。
 振りかえれば、知った顔だった。ジョニー・フレデリック。フレデリック兄弟の次男であり、ガイ・フレデリックの二番目の兄である。
「そんなケツの穴に入れても痛くねえ弟が、俺が知らねえ間にお友達をこっそり作ってたとなりゃあ心配にもなるだろう? 悪いダチとつるんでんじゃなかろうか、まさか麻薬に手を出してたりなんてして危険な犯罪に巻きこまれたらどうしよう! ウェイちゃんはよー、兄弟いるー? 反抗期の弟を持った兄の苦悩が分かる、んんん!?」
 危険な犯罪者の頂点に立つ男の遠吠えに、ウェイは「お前が言うな」と全力でつっこみたくなる。さすがに控える。
「過保護な兄貴だな」
「俺の弟は、俺様に似て、顔だけは天使ちゃんだからな。アルカトラズ監獄じゃ、大変だったんだぜ? 飢えた野獣どもに四六時中つけ狙われてよ。かわいそうに、就寝時間すら気を抜くことができずに、ほんの三日足らずで別人みてえに痩せ細っちまった」
 軽い口調で語りながら、ビューティの獣のような眼は、ウェイの一挙一動を凝視している。
「あのときも、弟に近づく野郎どもは、ことごとく俺が品定めし、必要によっちゃあ嬲り殺しにしてきた。収監者だけじゃねえ、牢番どももな。おかげで、俺も何度となく電気椅子の懲罰にかけられた」
 あいにく、とビューティは椅子の背もたれに巨体を預け、両腕を広げる。
「電気をビリッと喰らったくらいじゃあ、俺の兄弟愛は消えねえが。おお、そうさ、ブラコン万歳! 俺は誇りを持って、ブラコンであることを宣言するぜ。なんなら「ブラコン・フレデリック」に改名してやろうか、ヒャッハー!」
 突然、ビューティはウェイの座った椅子の前脚を力任せに蹴とばした。
 椅子が跳ね飛び、座っていたウェイがとっさに背もたれを掴むと、ビューティはぞっとするほど無表情にウェイを見下ろした。
 ついさっきまで、楽しげに笑っていたというのに、この落差。
 ゴミ屑を見る目に、ウェイは心の奥に隠した動揺が、一気に膨れあがるのを感じた。
「話に飽きた。――俺が中古屋どもを仲間に引き入れたのは、ジョニーに有能な手下をつけてやりたかったからだ。さあ、一分の自己アピールタイムだ。てめーの中古屋としての得意分野を答えろ。エアジェットか? 医療器具か? 大人のおもちゃか?」
 言って、ビューティはウェイの存在しない左腕に視線を這わせた。
「命より大事な商売道具をなくしたクズに、いったいなにができる。生き残りたいなら、全力でてめーの長所をPRしてくださーい」
 じくりと胸の奥が痛む。まったく返す言葉もない。片腕を失うなど、中古屋としての魂を半分、なくしたようなものだ。
 だが、ウェイは動揺に震える眼で、それでもまっすぐにビューティを見返す。
「なんでも」
 ビューティが毛のない眉を寄せる。
「あー?」
「片腕一本でも、俺に直せない機械はない」
 倉庫内に失笑が漏れる。
 助かりたいあまりに、その場しのぎの嘘としか思えぬ大言を口にした中古屋に対しての嘲笑だ。
 しかし、ビューティは笑わなかった。
「……おいテッドちゃんよー、ちょっとこっち来いや」
 ビューティが下卑た視線を投げた先には、壁際に一列にたたずむ男六人。
 生き残ったという中古屋に、武器商人たちだろう。ほとんど見覚えがないが、その中に、隻眼の中古屋テッドがいるのを認め、ウェイは息を詰めた。
「てめえ、この間、ウェイちゃんのことを「仲間じゃない。マンションに閉じこもって戦いもしねえ、最低のへたれ野郎」つってたよなあ。そこまで言うってことは、テッド、お前はこのウェイって野郎について詳しいってことだわな。どう思う? ウェイちゃんのこの大言壮語をよー」
 テッドはウェイには一瞥すらくれずに口を開いた。
「オール・アラウンダー」
 端的な答えに、ビューティは「あ?」と顔をしかめる。
 テッドは表情を変えずに繰りかえした。
「そいつの言う通りだ、ウェイに直せない機械はない。エアジェットだろうが、医療器具だろうが、大人のおもちゃだろうが、ガキのだろうが、関係ない。この世に存在するすべての機械に精通し、ほかの中古屋が「直せない」と匙を投げた機械すらもあっさりと直してみせる。――俺が知る限り、そいつはこれ以上望めないほどの、至高の腕をもった中古屋だ」
 倉庫内が、しんと静まる。
 ウェイは呼吸すら忘れ、決して視線を合わせようとしないテッドを見つめた。
「ほう。ずいぶんと身内の評価が高いじゃねえか、ウェイ。だが、それほど腕のたつ中古屋の噂など、俺様はこれまで一度たりと聞いたことがないぜ、テッドちゃんよー」
「そいつには、抜きんでたものがないからな」
 テッドは淡々と続けた。
「普通の中古屋には「売り」がある。たとえば俺が、世間に自分の存在をアピールするなら「エアジェットの修理は任せろ」と言う。言い換えると、「ほかの分野は不得手だから、ほかに頼め」という意味だが、世間の印象に残るのは、「エアジェットの修理を頼むならば、テッドに」という部分の方だ」
 不得手があるからこそ、得手は引き立つ。
 テッドのその言葉に、ビューティの眼はますます冷えていく。
「ウェイに不得手な分野はない。すべてに、得手。だが、「どんな機械でも完璧に修理をこなす」というのは「売り」にはならない。世間はそいつを「完璧」とは見なさずに、「得意分野のない、平均的な中古屋」としか評価しない。だから、そいつは目立たない。そうやって、世間の注目から逃れてきた」
 そう結論づけて、テッドはそこではじめてウェイを視界にとらえた。
「そうだろう、ウェイ?」
 ――なんてことを。
 ウェイは動揺のあまり答えられずに息を飲んだ。
 ウェイが「たとえ片腕一本でも、俺に直せない機械はない」と言ったのは、ビューティの言った通り「大言壮語」のはずだった。実際に、直せない機械がないかどうかなど、今、この場で証明することなどできない。だが、そう言っておけば、ビューティは多少なりとウェイに興味を持ち、ひとまずであろうとも、この「入社面談」を生きて終わらせることができるはず……そう考え、吐いただけの言葉にすぎなかった――はずなのだが。


 ――なんで、いつもあんたはそうなんだ。


 ハドソン川のほとりで。
 瀕死の中古屋を運び入れてた小屋で。
 テッドが、ウェイに投げかけた、あの言葉。


 ――関わる気がないと言っておいて、なんでいつも……!


 その声音には、憎悪に近い怒りが籠められていた。
 猛烈なあの怒りがどんな意味を持っているのか、ウェイは正確に理解している。
(……俺の自業自得か)
 ウェイは小さく息をついた。
 テッドの放った言葉は、ウェイの助けとなる以上に、フレデリック・ファミリーの警戒を呼んだ。ウェイに対して揶揄の対象以外の興味を見せていなかったファミリーが疑い深げにざわつき、壁際に控えたジョニー・フレデリックは警戒に満ちた目でウェイを観察しはじめる。
 だが、それ以上に、ビューティの自分を見る目が明らかに変わったのが恐ろしい。
 獣のような長兄の眼は、これ以上なく明瞭な、蔑みを宿していた。
「なるほど。テッドちゃんがそいつにやたらと敵意を向ける理由が分かったぜ。それほど腕のたつ中古屋なら、俺たちフレデリック・ファミリーにとっても脅威になっただろうよ。だというのに、お前は中古屋どもを助けるどころか、尻尾を巻いてマンションに引きこもっていたってわけだ。てめーが参戦してりゃ、中古屋どもは俺たちをあっさりと倒せていたんじゃねーのかあ?」
「……買いかぶりだ」
「テッドちゃんは、そうは思っていないようだぜ?」
 ビューティはテーブルに両肘をつき、組んだ頬杖のうえに顔を載せる。
「俺様は、仲間を愛さねえ奴が大嫌いだ。――アァ……、このままじゃ、俺はお前を殺すことになりそうだ。聞かせろよ。どうしてお前は、中古屋と一緒に俺たちと戦わなかった?」
 ウェイは目を伏せ、震える息を吐き出す。
 倉庫中の視線が集まっているのを感じる。
 だが、突き刺さるように感じられるのは、中古屋たちの視線だ。
 生き残って、ここに連れてこられた中古屋たち。前の戦いで、五人の英雄のひとりとして戦い、片目を失った中古屋のテッド。そして、この場にいない中古屋たちの非難の眼差しすらも、この身に感じる。
 なぜ戦わなかった―――。
 フレデリックとの抗争に巻き込まれるのはごめんだ。
 そう言って、戦うことを拒絶し、自室に引きこもったのはいったいなぜなのか。
 ビューティに、嘘は、通用しない。
「……納得が、できなかったからだ」
 そう口にして、ウェイは太腿の上で右手を固く握りしめた。
「納得ができなかった?」
「中古屋がフレデリックの殺害を決意したのは、金のためだったから」
 一言吐くたびに、心臓がペンチで掴まれ、捻られたように痛んだ。
「なんらかの理由のために、第三裏通りの住民を無差別に殺してまわるフレデリック兄弟。大金を得るために、顔もろくに知らない兄弟の殺害を企てた中古屋。――俺には、両者の違いが分からない」
「なん……だと?」
 黙って壁際に立っていた中古屋たちが、呆気にとられた様子で声を上げた。
「ふざけるな、てめえがマンションの奥でのうのうと平穏な日常を送っている間に、命がけで戦い、第三裏通りを守りつづけた中古屋を侮辱する気か! この引きこもりが!」
「第三裏通りを守った、それはただの結果だ。裏通りの人間たちは、中古屋を英雄と呼ぶが、実際には、金欲しさに赤の他人を殺すと決めただけの利己的な殺戮者にすぎない」
「おまえ……っ」
「――今、お前、「なんらかの理由のために」と言ったか?」
 ビューティが中古屋の激昂を遮るように問いかけてくる。
 ウェイは怪訝に顔を上げた。
「そうだ。あんたらには、あんたらの理由があるんだろう? ただの道楽か、それとも公明正大な理由があるのかは知らないが」
 は、とビューティが笑った。
「聞いたか、ジョニー! 俺は今まで何十人という中古屋と「おしゃべり」をしてきた。だが、俺たちに「戦う理由があるんだろう?」なんて問うてきた中古屋には初めて会ったぜえ!?」
 舌なめずりして、ビューティは狂喜を孕んだ笑い声をあげ、膝を楽しげに叩く。
「中古屋どもは、ある日突然、俺たちに銃口を向けてきた。誰ひとりとして、俺たちに理由なんて問わなかった。ただ、無言で。ただ、無表情に、淡々と仲間を殺してまわった。当時は、血も涙もない、無慈悲な殺人マシーンがやって来たと戦慄したもんだなあ、ジョニーよ!」
 ビューティはくつくつと笑い、壮絶な笑みでウェイを間近に睨み据えた。
「合格だ、中古屋ウェイ!」
 言い放ち、ビューティはポケットから拳銃を引きぬいた。
 銃口を顔に向けられたウェイは、沸騰するような恐怖と緊張に息を詰めた。
「てめーは優秀な中古屋だ。中古屋の中の中古屋をお迎えできて嬉しいぜ。ところで、お前、そこにいる三人分ぐらいの価値はあるんじゃねえか?」
 ビューティはおもむろに銃口を、ウェイから、壁際に立つ中古屋たちに向けた。
「なら、もうあいつらはいらねーよなー?」
「――……っ」
 場内の者たちが状況を理解するよりも早く、ビューティは引き金を引いた。
 全員が一斉に息を飲むと同時に、ビューティは驚愕の顔でウェイを振りかえった。
 ビューティの丸太のような右腕を、立ちあがりざまに力任せに蹴とばしたウェイは、バランスを崩し、テーブルを巻きこんで床に横転する。それよりも一瞬遅れて、ビューティの手から弾かれた拳銃が、遠く、床に落下した。
 一発だけ放たれた弾丸は、軌道をそらし、身動きひとつ取れなかった三人の中古屋たちのはるか頭上の壁にめり込んでいた。
「ぎゃはははははははは!」
 突如、足蹴にされたビューティが腹を抱えて笑いだした。
 同時に、床に倒れたウェイの、腕を失った左肩を巨大な足で踏みつけた。
「……っ」
「見たか、ジョニー、今の蹴り! 俺様、久々にぽかんとしちまったぜえ!? 自分で「中古屋は金目当ての殺人者」と罵った中古屋どもを、助けやがったぜ、こいつ!」
 やはり唖然と成り行きを見守っていたジョニーが顔を曇らせた。
「おい……まさか、兄貴。そいつを仲間として認める気か。そいつ――なにか変だ」
「変! 結構じゃねーか。ともかく俺はこいつが気に入った」
 ビューティは足を振りあげ、痛みに呻くウェイの胸をさらに踏みつけた。
 息が詰まる。痛みと苦しさに呻きながら、自分を見下ろすビューティを見上げると、フレデリック一味の頂点に立つ男は、ぞくりとするほど嗜虐的な眼差しで自分を眺めていた。
「ようこそ、下種な屑野郎の率いるフレデリック・ファミリーへ。歓迎するぜ、片腕。もっとも、あそこにいる中古屋どもは、決してお前を歓迎はしねえだろうがな」
 それはまさに、怪物の名にふさわしい笑みだった。







…お返事 
Powered by FormMailer.