面白い光景

「あ~、しけ!」
 椅子の前脚を浮かせ、頭の後ろで手を組みながら、メルファーティー=ナンディレスは溜め息まじりに吐き捨てた。
 場所は、タネキア大陸でも規模の大きい内に入る港街の、大衆向けに開かれた酒場である。時間帯が時間帯なので、酒場は仕事帰りの男どもで大変に賑わい、空気は熱気と紫煙で濁っていた。
 その一角、階段の下に設けられたテーブルで呟かれた一言は、方々でがなっている男たちの酔声に重なり随分と聞こえにくかったが、隣の席のルイス=ベッサイドにはしっかりと聞こえてしまっていた。
「それは何だか……すごく随分なお言葉だなぁ、メルちゃん」
 のっしりと頬杖をついたルイスは苦笑を浮かべた。
 その、まるで熊のような呑気な苦笑に、メルは口を尖らせ、ついでに頬をふくらませる。
「本当のことじゃないの。そりゃあまあ、健康美溢れるこの美少女メル博士と一緒なあなたたちの方は、楽しくってたまらないかもしれないけどさ」
「いや、んなことないです」
「あなたたちと一緒なあたしの方は、何だかもーしけっ。て感じなのよね」
 ルイスの真顔な反論を完全無視し、メルは人目を引くピンク色の髪をガリガリと掻き毟った。そしてチラリと真向かいの席に視線をやる。
「……特にあなた。しけすぎ」
「…………」
 この酒場は苦みが絶妙に利いた麦酒が評判だ。その麦酒ジョッキから零れた泡をぺろりと嘗めながら、真向かいの席の青年ラッセンファ=リュースは目だけでメルを見返した。
 のら猫の無関心さを彷彿とさせる多少吊りあがった目に見据えられ、メルはますますしけた様子で目を細める。
「何でいつもラス君って、そう飄々としてるわけ? 少しはニカッ! とか、ゲハッ! とか、明るい笑顔を作ってみなさいよね。せっかくのうれしはずかし酒宴の席が、しけしけムードに満ち満ちちゃってるじゃないの!」
 訳の分からないメルの言葉に、ラスはしばらくメルのピンクの目をじっと見つめ、……ふいっと視線を外して、コクリと一口麦酒を飲み込んだ。
 無視とは良い度胸じゃない! とメルが口を開きかける寸前、ラスがぼそっと呟いた。
「……ゲハ」
「…………なに?」
「……ニカ」
「…………」
「……これで満足?博士」
 ────。
「ばっばっ……馬鹿にしてぇー!」
 メルは怒りの叫びとともに、バッと右拳を自らの眼前に掲げ上げた。そのほっそりとした中指に燦然と輝くのは、指輪型・超小型水鉄砲(色水入り)。
「これでもくらえ!てい!」
 メルはチャチい引き金を、チャチい掛け声でくいっと引いた。
 ぴゅーっ、びちゃ!
 指輪の小さな砲口からチャチい音とともに液体が飛び出し、ラスの飄々とした猫顔に見事に命中する。箸が転んでも笑うルイスが、ぶはっと吹き出した。
「あーたーしーをー、馬鹿にするからよ! ざまあみなさい!」
 メルは顎をこれでもかと反らして、悪役チックな嘲笑い声をたてた。
 そんな彼女を尻目に、ラスは頬を伝う色水を服の袖で拭き取った。そして何事もなかったかのように、飄々と麦酒を飲みはじめる。
 一人取り残されたメルは、唖然とそれを見下ろし、ふるふると拳を振るわせた。
「……っあーっはっはっはっは! サ、サイコー! ラス!」
「…………」
「ひー! くっくっく、アハハ──」
 ……ゴン!
 メルはしけきった顔で、いまだ笑い続けているルイスの後頭部に、八つ当たりパンチを食らわした。

 それから数分後のことだった。
 しけた顔で、でろーんとテーブルに顎を乗せていたメルは、不意に顔を上げた。ピンクの瞳を丸々と開き、飄々と麦酒五杯目を飲んでいるラスの背後をじっと見つめる。
「……メル?」
 三杯目をでろでろと呑んでいたルイスが、不審げに声をかけた。と、メルは目を丸くしたままルイスを勢いよく振りかえり、彼の丸っこい鼻先にぐいーっと顔を近づけ、本能的に逃げようとする大きな顔をがっしりと押さえ込んだ。
「別にチューなんてしないわよ逃げないでよ無礼ね!」
「い、いや、その、メ、メルちゃん、チューから逃げてるんじゃなくて、純粋に貴女にオレ、恐怖感じてるんです今とっても」
「恐怖はエクスタスィーと紙一重よ、打ち震えなさい! それより、見てよー!」
 メルは狂喜乱舞に声を震わせ、グキッと無理やりルイスの首を、先ほど視線をやっていた方へと向けさせた。
「いてぇいてぇ! マジいてぇー!」
「いいから! 痛いのなんか後にして! 見てよ見てよ面白いの!」
「後にできるかー!」
 低レベルな押し問答の末、ルイスは涙目ながらも結局、メルの指示通りにラスの背後に視線をやった。
 首を傾げているラスの向こうに見えるのは、幾つかのテーブルで騒いでいる客たち──胸倉を掴みあっている漁業組合の連中や、すでに出来上がり、テーブルを寝床と決めた出稼ぎの男たち、あるいは赤ら顔で酒瓶を積み木がわりにしている船乗りなど。それらは毎日起きている日常的な酒場の光景で、別段面白いものでもないはずだが。
 ルイスは首をかしげる。
「何が面白いんだ、メル。とうとう幻覚見え始めた? 医者うざ太郎呼んだろか?」
「失敬な!」
 グキグキッ! 
「……っっっ」
「良く見なさい! カウンター席よカウンター席。何だかとっても面白い光景が今まさに繰り広げられようとしてるんだってば──ねぇちょっと聞いてる? クマのくせに、いっちょまえに蟹泡吹いてんじゃないわよ、ちょっと!」
「……あれ? レティクとホーバーだ」
「なにがレティクとホーバーよ! その通りよ! しっかり見てんじゃないのクマってば、そういうことは迅速丁寧に言いなさ──ん?」
 メルはふと首をかしげ、首が妙な方向に曲がったルイスの頭をぽいっとその辺に投げ捨てて、ラスの方を振りかえった。
 くつろいだ様子で頬杖をついたラスは、自分の背後を首だけ回して見つめていた。ちらりとメルに視線を戻すと顎でカウンター席を示し、「レティクとホーバーでしょ?」と同じ台詞を繰りかえした。
 ──二人の視線の先には、酒場のカウンター席があった。
 流しの吟遊詩人が哀愁漂う音楽を奏でるその脇に、普通の酒場よりも少し広いカウンター席が伸びているのだが、そこによく見知った二つの人影がある。
 副船長ホーバーと、水夫長補佐レティクだ。
「……すごいわすごいわ! 面白い光景よ! あたしったら、すっごい幸運!」
 メルは抑えた声で叫び、身を乗り出してカウンター席にきらきらした眼差しを向けた。
「……博士、重い」
 身を乗り出しついでに、意味もなくラスの肩にしがみついたメルは、ラスの素直な一言にチョップを食らわす。
「女性に対し、重いとは何、重いとはええ? 失敬もイイとこよ直ちに訂正なさい」
「重いものは重い」
 三発さらにチョップが追加された。
「……あの二人の何が面白いんだって?」
 テーブルの下から、青白い顔のルイスがぐぬぬっと復活の雄叫びを囁きながら、のろのろと湧き上がってきた。首をなるべく動かさないようにと、ぎこちない動きで自分の席に戻る。
 メルは不満そうに口を引き結んだ。
「面白くないって言うの? あんな面白いものが?」
 ルイスはしばし目を細め、はぁ……と大きな溜め息をついた。
「最近の女の子ってのは分かんねぇなー。あれだろ?つまり。男と男が酒場で出会って、これからどんなラブラブな展開になるかって、妙な期待を」
「誰がホモな面白話を期待してるか──!」
 びちゃ!
 本日二度目の指輪型超小型水鉄砲(色水入り)が、ルイスの銀色の髪に命中した。
「まさか知らないの? ホーバーとレティクっていったら、有名じゃないの!」
 渋い顔で髪を手で拭きながら、眉根を寄せるルイス。メルは信じられないという顔で、いやむしろ軽蔑に近い顔でルイスを見下ろし、ふるふるとピンクの髪を左右に舞わせた。
「もういいわ、年がら年中冬眠熊男は引っ込んでて。……ラス君は」
 ルイスに「しっしっ」とばかりに手を振ってから、メルはちら……と期待もくそもない眼差しをラスに向けた。
「……知らないでしょうね。しけてるだけに」
 相変わらず飄々とした顔でカウンター席を眺めているラスの後頭部に、メルは溜め息まじりで諦めの言葉を呟いた。
 だがラスは横目でメルを振り返ると、静かにしろとでも言いたげに、自分の唇に人差し指を押し当てた。
「肝心なとこ見逃すよ、博士」
 メルは一瞬目を丸くし、やがて楽しげににんまりと笑った。
「分かってるじゃない、ラス君」
 ──どうやらレティクは、ずっと前から席についていたようだった。待ち合わせていたわけではないのか、ホーバーが驚いた顔でレティクを見下ろしている。レティクはグラスを傍らに置くと、座れ、とでも言ったようだった、ホーバーがぎこちなく彼の横に腰を下ろした。
「うははは! 興奮してきたわよー!」
 両指をがしっと絡め、メルはうきうきわくわく、小刻みに笑う。
「心拍数計測不可能だわ。ああ、何てことっ、何故今日に限って肩パット内部にいつもの音声録音機備え付けてこなかったのかしら」
 メルはわたわたと服のポケットを漁って、使えそうなものを必死に探した。次々とテーブルの上に乗せられる用途不明な金属の塊を、ルイスとラスはおそるおそるつんつんと指で突っつく。
「くそ!皆無! ……まあいいわ。この記憶キャパが並外れたこのあたしが、全会話をばっちしめきめき記憶してやる。絶対クロルに自慢してやるんだから。……さあて、奴らってば、一体全体どんなに情ないもじもじ会話をするのかしらー!」
 出した発明品を次々と元通りに仕舞いながらはしゃぐメルをぼんやりと見上げ、ルイスは鼻頭をぽりぽりと掻いた。
「何がなにやら……」
「あの二人、口をきかないで有名なんだよ」
 散々引っ張ったくせ、ラスがさらっと、ルイスに簡潔な説明をした。
 ルイスはテーブルに顎を乗せ、しばらく虚空を見つめる。
「口をきかない……」
 そしてガバッと上体を起こすと、ああ!とテーブルの下で手を叩いた。
「そういうことか! ……なんだ。てっきり恋敵同士とか何とか、そういうことを言ってるのかと思ったよ、なんだなんだそれなら知ってるぞ」
 恋敵だとレティクもクロルが好きなことになるな、と船内の内部事情に妙に詳しいラスは、ちょっと想像して一人ウケた。
「そうそう知ってる知ってる。だよな、うん、俺たちもそう思ってたんだ」
 ルイスは船上の生活を思い出し、納得げに腕を組んでこくこくとうなずいた。
 俺たち、というのはルイスを初めとする舵手たちのことである。レティクとホーバーのことは、仕事の合間に話される噂話の数々、「セインには隠し子が三人いる」とか、「セインとレナとウグドは実は三角関係だ」とか、「フェルカは実は女だ」とか、「ミンリーは実はログゼにはとっくに愛想を尽かしていて、今はもう俺のことが好きなんだ」とか、「いやオレだ」とか、そういった噂に混じって良く議論されるネタの一つだった。
「お互いにお互いの恥ずかしい過去を握ってるとか、昔ひとりの女を奪い合ったことがあるとか、言いたい放題噂がたってるよ」
「女ですって? そんな甲斐性、レティクはともかく、ホーバーにはないわね。……女どもの間でも色々と推測が飛び交っているのよ。似たようなもんだけど。過去に二人の間で何かあったとか、その過去とは仕事関係だとか、ラギルちゃん関係だとか、あるいは単純に気が合わないとか」
 メルが指をピンッと立てて、女性陣の噂話を思いかえし、二人に教えてやった。
「ま、うちで一番有力なのは、レナちゃんの……フン、奴らは二人とも無口だからな。どうせ会話が続かないんだろう。クラス替えをしたばかりの、隣の席同士になったガキどものようなものだ。もじもじもじもじ……何て鬱陶しい奴らだ!こんな奴らと同じ釜の飯を食っているとは、一生悔やんでも悔やみきれん! ……ていう説、もとい、お互い無口だから話が続かない説ね」
 レナの堅苦しい口調を見事に真似してみせたメルに、ルイスは腹を抱えて笑い転げた。
「……最近気付いたんだけど、あなたってものまねネタ弱いわよね。よーし、バクスクラッシャーきってのものまね師ラス君が、何かやってさしあげよう! やっておしまいラッセンファ!」
 いきなりネタを振られた別にものまねなんか得意でもなんでもないラスは、大して焦った様子も見られない表情のままガタッと立ち上がり、笑いの引いてきたルイスの胸倉をガシッと掴んで、自分の顔すれすれにルイスの顔を引き寄せ、口を大きく開いた。
「笑いすぎは健康に良くありませぬぞルイス殿! 呼吸は極めて冷静に、スーハースーハー規則正しく行うのであります! さあ行きますぞ、スーハースーハー! 御一緒に!」
「────っっっ」
 ラスに降臨したウグドの説法に、ルイスは声が出ないほど笑いまくった。胸倉を掴む手をひーひー言いながら、必死に振り解こうとする。その隣でメルもまた、ルイスの背中をバシバシ叩いて笑い転げた。
「と、ともかくそんなわけで、面白い光景なわけ! 二人が果たしてどのような会話をするのか、見物じゃない?きっともー、たじたじもじもじ、大ウケに違いないわ!」
 ようやく笑いが引いたメルが元の話題に戻って、ルイスの同意を求めた。
 ルイスはまだ涙を流しながらも、コクコクとうなずく。
「……な、なるほど。それは確かに面白いかもしれないなっ」
「そうでありますな」
「もうやめてぇ……!」
 どうしようもない奴らだった。 
「けど、ここじゃ、会話なんて聞こえないよ?」
 自分のせいで笑い転げているルイスを見捨て、ラスは至極真っ当なことを言う。
 酒場内は彼らが入った時よりもさらに客の数が増え、騒がしさも二割増しだった。メルはちっと舌打ちし、ふと綺麗な線をした顎先に手を当て、酒場の天井を見上げ、壁を見つめ、テーブルの配置、椅子の配置、客の立ち位置を丹念に確認した。
「……角度的にもそうね……、音の反響も……死角だし……。……よし」
 ブツブツ呟くこと数秒、メルはぽんっと手を打って、死にかけているルイスと、それをつっついているラスに、凛とした表情で告げた。
「移動するわよ」

「よし、ここなら良さそうだな……ふふ」
 こそこそと這うように場所を移動した三人は、速やかに狙い通りの席に着くと、お互いにうなずきあった。
 右手前方、それなりの距離を置いた向こうに、カウンター席が真っ直ぐに伸びている。そのほぼ中央の二席に、我らが副船長ホーバーとレティクが妙に堅苦しく座っていた。
 相手からは見つかりにくいが、こちらからは見やすく、声も聞き取りやすい場所、メルが机の配置、音響効果、光の角度などの情報を総合して厳密に割り出した結果が、このテーブルだった。ちなみにこの席、空いていたわけではない。元々いた客の背中に、メルの発明品「服の上からでもオッケー超高熱ホッカイロ塗り薬版」をこっそり塗ったのだ。客たちは声なき声で叫びながら店を飛び出し、哀れにも食い逃げリストに名前を載せることとなったが、その辺は些細な余談である。
 ちゃっかり前の席から呑みかけの麦酒を持ってきたラスは、少々ぬるくなったそれを無表情に呑み干し、近くを通った店員におかわりの合図をした。
「……ラス。何かお前、飲めなかった十六歳までの分、一気に取り戻してるみたいだな」
 ルイスは身に覚えがありそうな苦笑を浮かべ、自分も追加注文をした。
 そしておそるおそる、メルを振りかえる。
 メルは先ほどまでかけていなかった、ピンク色のレンズが入った丸眼鏡を鼻の上に乗せ、横柄な姿勢で椅子に腰掛けていた。ルイスの視線に敏感に反応し、ぎろっと彼を見下す。
「何を見ている愚昧なアンダーピーポーめ」
 高飛車に顎を反らし、メルは軽蔑に眉根を寄せた。
 普段から少々変人のきらいがあるが、愛用の丸眼鏡をかけると、輪をかけて変人になるメルである。自らの発明品を世間に知らしめる──要するに使用するときは、何故か丸眼鏡をかける習性があるらしく、先ほどのホッカイロ塗り薬を使用したときに、丸眼鏡をかけてしまったのだ。ちなみに水鉄砲はというと、ちゃちすぎて発明品と呼ぶほどの大したものではないので、丸眼鏡はかけなかったのだとか……無意味にお高いプライドである。
「ふふふ、さては私の偉大なる発明品に恐れをなしたな? 安心するがよい。私は、人間外の動物と植物は害さぬ武器づくりをモットーに日々研究を重ねる、自然に優しいエコロジーマッドサイエンティストなのだ。貴様のような熊になど、武器は使用せんわ……ふふ……ふはは……っふははは──」
 ガバッ!
「……っむぐあぁ!」
 大声で高笑いを始めようとしたメルの口元を手で押さえつけ、ルイスはのほほんと困ったような笑いを浮かべた。
「身の安全のために、失礼しますよ、メル博士―」
 そう言って、抵抗するメルの顔からあっさりと丸眼鏡を抜き取った。
「……苦しいじゃないの! この変態熊五郎が!」
 びちゃ!
 哀しいかな、本日三度目の水鉄砲を間近でくらうはめになったルイスであった。
「……あ、ちょっと二人とも静かに!」
「うるさいのは博士だけ」
 チョップ!
「ようやく進展がありそうよ」
 長らく沈黙していたカウンター席のほうで何やら動きがあった。
 じっと、草むらから獲物の動向を見守る獣の目で、カウンターを見つめる三人。
 レティクがちらりと横目でホーバーを振りかえり、そして小さく呟いた。
『久しぶり……』
 それを長々と見つめかえし、ホーバーもまた呟きかえす。
『……ひさしぶり』
 危うく爆笑しそうになったのは、メルとルイスである。
 メルはルイスの手をがっしりと掴み、ルイスは口元を引き結んでその手を掴み返した。
「聞いた? 聞いた? なに今の……!」
「もったいぶったあげくに、久しぶり、だってー……!」
 お互い手がふるふると震えている。
 メルは目尻に涙を浮かべながら、必死で笑いをこらえる。
「久しぶり……て、毎日会ってるだろ! てのよねー!」 
 ルイスは自分の膝をどんどんと拳で叩き、肩を震わせた。
「ぎこちねぇー!」
「…………」
 ひそかに麦酒を吹き出したラスは、笑い転げて前後不覚のルイスの服を引っつかみ、それでテーブルをごしごしと拭いた。
「しかも何、あの間! あの会話の、間!ながっ!」
 もはやこのまま抱腹絶倒死しそうな勢いで、三人はそれぞれに笑いまくる。これだけ騒いでいながら、周囲の注目を浴びないことから、いかに周りも酒が回って騒々しいことになっているかが想像つくだろう。
「あれで本当に副船長と水夫長補佐? 仮にも幹部二人がそろって、久しぶりはないでしょうに!」
 あのぎこちなさは、やはりレナの説が正しかったことを証明していると言えそうだった。
 レティクは実際無口な男だ。人を寄せ付けない冷たい無口さとは違うが、平素から妙に寡黙なのだ。昔はもっと喋っていたというから、彼の親友であるワッセルがやかましい分、そうならざるを得なかったというのが専らの噂である。
 ルイスは目尻の涙を拭きながら、いやいやと手を小さく振る。
「つっても付き合いは良いぞアイツ。あれで結構、あくどいこともサラッと平気でやるし。この間なんてシャークと示し合わせて食い逃げやってたぞ、そういや……」
 シャーク、お前金あるか?
 ないっス。……ええ、レティク持ってないんスか!?
 ない。
 ……きっぱりっスねぇ。もはや食い逃げ覚悟済みと見たっス。
 とっくの昔にな。
 …………。
「俺もたまたま同じ食堂にいたんだが、奴らの逃げっぷりは見事だった……」
 ルイスは当時の情景を思い出し、ふふふと遠い微笑を浮かべた。メルがぐいーっとルイスの首を絞めて、「見てたんなら止めなさい!」と意外にまともな説教をかました。
 ルイスとレティクは年齢も近く、公的海賊時代からの長い仲である。二艦編成の海賊イリータインの配下に組み込まれた際には、船が別々になってしまったため、会う機会はほとんどなくなっていたが、それでも彼の本性というのは大方分かっているつもりだ。
 一見無口で物静かだが、実はタチが悪い。
 それがルイスが長い年月をかけて、導き出した結論だった。
 一方ホーバーの方は、寡黙というわけでは決してない。副船長としての彼は確かに口数が少なくなるが、それは実質船長としての責任の重さがそうさせているだけで、船長室に用もなく集まってくる仲間たちと喋っている彼は、一人の穏やかな青年である。
「穏やか。ふふふ、あたしそのホーバーへの評価聞くたびに、虫唾が走るのよね……」
 メルが手元のサワーの青い液体を見つめながら、実際に身震いをしてみせた。
 ホーバーと彼女は、ルイスとレティク同様に付き合いが古い。確か、公的海賊になる以前からの知り合いだったはずだ。副船長と五大問題児の一人という立場から何かと衝突するが、メルのさばさばした性格とホーバーの無頓着な性格はどうやらウマが合うらしく、同年齢なことも手伝って、親友のような関係を築いているのだった。
 メルはキッと虚空をにらみ据え、フンッと口端を歪めた。
「あのアホのどこが穏やかよ! この間だって、せっかく全世界を愛の火の粉に包むことの出来る武器を発明したっていうのに、その偉大なあたしに向かって奴は──」
 メル、沖合いにイルカの大群がいる。
 イルカ~! イルカ好き~! どこどこどこどこ早くおっしゃいこのトロが!
 あれだってあれ。見えない? 双眼鏡で見てみろよ。
 ……えー?(双眼鏡を取り出し、メル覗き込む)
 ──バンッ!
 あははは。これで少しはコリろ。
「……て、あたしが覗いた双眼鏡に、正面から平手打ちしたのよ!目玉がつぶれるかと思ったんだからー!まあ、双眼鏡の覗き窓部分に衝撃吸収剤付けといたから無事だったけど」
 ルイスはガクッと肩を落として、「こんな奴らを乗せて、船を操縦してる俺って」と涙を流した。
 一人、公的海賊時代の頃を知らないラスは、二人の話に片眉を上げた。
「要するに、二人ともやっぱり屈折した奴らバクスクラッシャーだったってことか」
 身も蓋もなかった。
 それから三人はさらにカウンター席に観察の目を走らせていたが、「久しぶり」発言以降、二人の間には再び沈黙が落ち、少しも会話が進む気配がなかった。
「おいおいおい、マジかよ」
 ルイスは痛む頬を両手でパシパシ叩きながら、カウンター席を見守る。
「会話、はずまねぇー」
 酒場であそこほど白けている場所はない、というほど二人の会話は弾んでいない。メルの最初の言葉ではないが、「しけっ!」もいいとこである。
 メルもまた妙に悟ったような顔付きで、ルイスに同意してうなずいた。
「まるで、初々しい男女の、初デートのようね……」
「……言えてる」
 さすがにペースダウンしたようだ、七杯目をチビチビと呑みながら、ラスがうなずいた。
「ああいやだ、何てじれったいのかしら!何だかもー今すぐ二人の背後に迫り寄って、後頭部に時限爆弾しかけてやって、弾む話題のネタ提供してやりたいわ!あははっ、頭が爆発したぞホーバー、てへへっ、脳みそが肩についてるよレティク……!」
「……あのね」
「時限爆弾なら、そういえばテスが得意だ……」
 ラスが不意に一年ほど前に起きた「テス、彼女にわざわざふられに行くために船を乗っ取った事件」を思い出して言った。あの時一体何を思ったのか、テスはセイン、ワッセル、ガルライズの協力を得ようと、地獄の間の扉を時限爆弾で吹っ飛ばして、三人を脱獄させた、というとんでもないアホな行為をやってのけたのだ。
 メルはふんっと鼻を鳴らし、意味もなく不敵な笑みを浮かべた。
「大馬鹿者。一時停止、巻き戻し、早送り、スロー、2スローなどの時間調節も出来ない小爆弾などを、時限爆弾などと高貴かつ物騒な名で呼んでほしくないわ」
「……そんな機能が必要があるのか? 時限爆弾に」
 メルは反論してきたルイスをキッと睨みつけた。
「熊の脳味噌よ、そろそろ春よ、起きなさい! ……この恐怖があなたには理解できないと見えるわ。あと三秒で木っ端微塵だ、と思いきや、あと六秒に増えたよーん、とか言われてごらんなさい、恐怖は倍増よ! 拷問玩具として最適だわ……恐ろしい」
「い、いや、玩具って」
「でもあたしは拷問なんて低俗な行為心底反対だから、この画期的玩具は作成してやらないの。安心なさい」
「ただ作れないだけなんじゃ……」
「ルイス君、あなたの目をスタフのエロ目と交換されるのと、セインの皺なし脳味噌移植されるの、どっちがいい?」
「さ、三番目で」
「──おっとっと!」
 と、メルは唐突に乗り出していた身をテーブルの下に沈めた。何か妙な視線でも感じたのか、あるいは弾まぬ会話に落ち着かないのか、ホーバーがこちらを振り返ってきたのである。
 ラスやルイスはともかく、メルの全身ピンクな出で立ちはあまりに目立つ。ルイスはテーブルの下に隠れたメルに「もう帰ってこなくていいよー」と声をかけ、溜め息をついてからラスを振りかえった。
 黒髪の青年の前には、七本の空のジョッキが並べられている。とりあえずの休憩なのか、もうこれで打ち止めなのか、ラスはおかわりは注文せず、空のジョッキを人指し指で弾き、キンッという軽やかな音を楽しんでいた。
「……まあなー、五十人も人間いるわけだし、そりゃ色々な人間模様があるよな。レティクとホーバーに会話がないってのも、まあ別に普通のことかもな」
 強く打ちすぎて痛かったらしい、ラスは爪をじっと見ながら上目遣いにルイスを見つめた。
「……僕とルイスもだよ。今回の港下りで初めてまともに喋った気がする」
 思わぬ返答に、ルイスは光の加減で色を変える目を驚いたように丸くした。
「そうだっけ。……そうかな。もうこの組になって一週間経つからな、違和感ないけど……そうだったか」
 ラスはこくりとうなずいた。
「僕にとってはこのメンバーでの飲み会も面白い光景だ。けど二人といるのは楽しいと分かって嬉しい」
 一回りも年齢の離れた青年の素直な感想に、ルイスは何やらむずがゆそうに首根っこを掻いた。
「……まあ、そんなもんかー。奴らの場合目立つだけで。考えてみれば俺も喋らない奴いるしな。うん、けど……そうだな、俺もこのメンバー楽しいと思うよ──うあ!」
 唐突に野太い雄叫びを上げ、ルイスが床を蹴りあげ椅子ごと背後に飛びずさった。きょとんとするラスに謎の笑いを返してから、ルイスはテーブルの下を覗きこんだ。
「めくるなー!」
 メルはこめかみをぽりぽりと掻きながら、苦笑ぎみにあははーと笑った。
「ごめんごめん生物学的見地でついつい銀髪男の脛毛はやっぱり銀色なのかしらって気になっちゃってさ、あくまで人類の明日ためと思ってやったことだから、あなたは即刻あたしを許しなさい」
「嘘だ! 単純な好奇心だ!」
「時には嘘も方便よ」
 良く分からない主張にもかかわらず、何故か反論できずに敗北感でいっぱいになったルイスは、とほほーとテーブルに突っ伏した。
「博士。もう出てきても平気」
 今起きたことを果たして認知しているのか、平素通りのラスがテーブルの下を覗いた。
 飄々としているせいか、他人のことなど興味がないと思われがちなラスだが、実は誰よりも敏感に人の感情を読み取る。メルはどこかいじいじした様子でルイスのズボンの裾を丹念に直している。ラスには分かった、テーブルの上での楽しそうな会話に参加できなかったから拗ねているのだと。ラスは珍しく小さな微笑を浮かべた。
「なになに、その小馬鹿にした笑いは!別に反省してないわよあたし言っとくけど!」
「うん。かわいいなと思っただけ」
 ラスはえらく素直な男であった。
「────」
 メルはしばらく口を開いたり閉じたりした後、
「な、な、なにを言ってるのかしらこの小男は! 馬鹿は休み休み言ってたら、言いつづけてもいいとでも勘違いしてるんじゃないのかしらこの小男は!」
 びちゃっ!
 文句をたれながら真っ赤な顔で指輪型水鉄砲を作動させ──しかし珍しく狙いが外れ、ラスの肩を掠めて後ろの酔っ払いの背中に当たった──、メルはコソコソとテーブルの下を這い出て、トスンと椅子に座った。ついでにサワー用の小さなグラスを、両手でおろおろと包み込み、目を方々に泳がせ、意味不明なことを呟きつづけた。
 メルはえらく照れ屋な女であった。
「え、なに、メル、照れてんの!? うはは、たまには可愛いな、たまには!」
 途端仕返しとばかりにからかってくるルイスを、メルはギンッと睨みつけた。
「あーなーたーだってねぇ、実は女船員の間では、かわいいで評判なの知ってる!?」
 張り上げられたメルの反論声に、ルイスは長く長く沈黙し、さっと顔を青ざめさせる。
「……は、はいー!?」
「知らないんでしょう! ざまあみなさい。フィーちゃんがねぇ、言ってたわよ。ルイスってくまさんみたいで可愛いわね……て。それ以来、フィーちゃんはルイスがお気に入りってんで、ホーバーとレティクが口をきかない並に噂されてるんだから、おほほほほ」
 ルイスが頭を抱え、「男としてそれは、どうなんだー!」と自らを嘆いた。
「…………」
 もはやカウンター席のことなど忘れかけている二人にちょっと飽きて、ラスは再びカウンター席の観察に戻った。気づけばそちらに動きがあって、一体、いつどこでそうなったのか、ホーバーとレティクが妙に和んだ様子で小さく笑いあっていた。
『……ほら、な』
『そっか……なるほど』
 二言、三言喋って、二人は再び肩を震わせる。
「ややや! なになに!?」
 ルイスをいびっていたメルがぴくりと耳を動かし、カウンター席を久しぶりに振りかえった。何があったの!? とラスに目をやるが、ラスも首を傾げる。
 メルはぬぉおお! と仰け反ると、後悔のあまりによろりと身をふらつかせた。
「在り得ない、この天才科学者メルファーティーが肝心なところを見逃すだなんて、何てことなの……」
 そして再びカウンターに視線をやったメルは、不意に目をキランッと光らせた。
「というか、何であんないい雰囲気になってんの、いきなり。何か怪しくないかしら!?」
 ルイスは深々と溜め息を落とし、気色悪そうに首を振った。
「ほらな、やっぱり最近の女の子ってのは、分かんねぇ。否定しながらも、結局メルは男と男がラブラブな展開を繰り広げる期待を……」
「だって実際あの妙なムードは何なのよ! 第一、私は女の子ではない、すでに成熟した一人の女性である!」
「妙かぁ? 俺には、無口な男二人が、ふっつーに会話してるようにしか見えないけど」
「普段喋らない男と男が、酒場で二人きりになった途端、あんな仲睦まじく笑いあってるなんて、妙以外の何者でもないじゃないのー!」
「だからそれは……その……──うう……嫌な展開だ……」
「これはレナ説外れか? 新説を学会に発表するときがやってきたのか!?」
「想像するだに気色悪い……」
「うっはっは! これを話のタネに、みんなから拝聴料とって、この間の実験中に吹っ飛ばした研究室の壁修理代に回すのよー! ……ああ、本当にもーどうしてあたしってば音声録音機を持ってこなかったのかしら! 肉声で聞かせたいわ噂好きの小娘どもに! ちょっとショッキングすぎるから、PTAに回収される前に皆の手元に渡るよう画策して……あああきっと面白いことになったのにー!」
「ゆ、歪んでる……」
 箒のようにぼわっと膨らんだ二つ結びの髪が、メルの頭の動きに合わせ、周囲に風を作り出す。バクスクラッシャーの女たちに絶望した様子で頭を抱えるルイスを尻目に、ラスは多少火照った顔をメルの方に近づけて、涼しい……などと呟いた。
「こうなったら奥の手よ。今からこの辺にあるもの使って、作ってやる!」
「───はい?」
 ルイスが嫌な予感に駆られて顔を上げるのと同時に、メルはテーブルに放ったらかしにされていた丸眼鏡を取り上げた。すかさずラスがその腕をはしっと掴んで、メルの暴走を食い止めた。ナイス!と叫んだルイスに、メルは怒りの頭突きを喰らわせた。
 首の絞め合いに発展したルイスとメルの攻防を正面にして、ラスはふとメルの色眼鏡にじっと目を向けた。以前からちょっとした疑問だったのだ。これをかけるとメルは性格が豹変するが、何かこの丸眼鏡に仕掛けがあるのだろうか、と。見たところ普通の丸眼鏡だ。シャークも同様に丸眼鏡を愛用しているが、彼のものと違うのは、レンズに色が入っていること、色眼鏡だということだ。針のように細いフレームは言うまでもなくピンク色。真珠粉を塗料に混ぜているのだろう、かすかに真珠独特の滑らかな光沢を放っている。丸い色付きレンズはやはりピンク、酒場の照明に翳してみると、ピンクサファイアのような美しい色の丸が、ラスの頬にぽっかりと浮かんだ。
「……バカ殿がいるわ……」
 掴み合いをしていたはずのメルが、ルイスの胸倉を掴んだまま硬直し、ぽつりと呟いた。
「バカ殿。それはケナテラ南東部にあったと言われる古代王朝の王がしていた化粧法の総称である……」
「……?」
「彼らは顔を白粉で塗ったくり、頬にまん丸な紅を……描くのようっ!」
 唐突だった。唐突にメルが、ついさきほどまでマトモだった眼差しを、酔っ払い特有の定まらないものに変え、へにょーんと後ろにそっくり返った。危うく床に倒れそうになったメルを、ルイスが素早く背中に手を回して支えた。助けようとした、というより、メルが胸倉を掴んで離さなかったので、自己防衛も兼ねていたのだが。
「……と、とうとう酔いが回ったか」
 それにしても唐突な、とあきれ返るルイス。ちらりとテーブルの上を見下ろすと、ラスの七杯に気をとられて気付かなかったが、さりげなくサワーのグラスが山積みになっていた。
「おーい、大丈夫かメル。しっかりしろー」
 床に膝をついたルイスは、脚の上に仰向けで乗っかっているメルの頬を、空いている手でぱしぱしと叩いた。メルは口をもぐもぐさせると、にょほほーとやけに無邪気に笑った。
「……あたしだって、二人が一緒で、楽しいんだからー」
 能天気な本日の感想を聞いて、ルイスはとほほーっとうなだれた。
「ほんとにこの子は……」
 ラスがメルを起こすのを手伝おうと、椅子を立ち上がってルイスの脇に立った。
「よ……っと」
 ルイスとラスは、腰砕けのメルをどうにか椅子の上に引きずりあげようとするが、へろへろすぎて上手くいかない。
 二人は顔を見合わせ、ふとカウンター席の相変わらず進展のない二人に目をやった。
 不思議と、先ほどまで面白く思えた光景が、普通の日常的な光景に見えた。
「……メルのへんちくりんな解説がないと、なんか面白くないな」
 ルイスはでろでろのメルを再び見下ろし、苦笑まじりに言った。
 ラスはメルの色眼鏡を冗談まじりに自分の鼻にかけ、にこりと笑った。
「そうだね」
 そして二人は、メルを同時に抱え上げた。
「帰りますか」


 喧しい酔っ払いの間を縫って、ピンク色の髪をした女を背負った大男と、痩せた青年とが、しずしずと酒場を去ってゆく。
 カウンター席に座っていたホーバーとレティクの二人は、喧騒の向こうで、酒場の扉が一度開き再びぱたり……と閉じるのを聞いてから、同時にクツクツと笑いだした。
「……ほんと面白いな、あいつら」
「まったくだ……」
 ホーバーの苦笑に、レティクが微かな笑いとともに同意する。
 カウンターに置かれたグラスの横には、もう薄まってはいるが、酒で書かれた水文字。
『あっちに面白いのがいる』
 結局、向こうと似たようなことをしていた二人は、会話の一部始終をほぼ丸々黙って聞いていたわけだが、それにしても驚いたのは「ホーバーとレティクは口をきかない」という妙な噂があることである。
 レティクは知っていたようで、先ほどその噂のことを話してくれたのだが、メルがそれを口にするまでは信じられなかった。
 ホーバーは思い出して、思わず苦笑した。
「そんなに口きいてないかな……」
「きいていないな……言っただろさっき。久しぶりって」
「……あ、そういう意味だったのか。レティク式の冗談か何かかと思った」
「……よく分からない冗談だな……」
「……と思って、つっこむべきか悩んで、何となく怖いから普通に返したんだけど」
「…………ああ」
「……」
「……」
「……」
「……」

「……やっぱり、あまり口はきかないな」
「……そうだな」

おわり

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