君が僕 僕が君

 朝起きたら、ラギルニットはホーバーになっていた。

「ふわぁ」
 ラギルニットは船室に差しこむ朝日に起こされ、寝棚からむくりと起き上がり、
 ゴッ。
「ぃ――ったぁ」
 いきなり額を天井にぶつけて、うめいた。
「あ、あれぇ?」
 まだ半分寝ぼけたまま、頭を撫でこ撫でこする。何で頭なんかぶつけたんだろう。天井は確かに近いけれど、いつもなら全然届かないのに。
「おしっこ……」
 とはいえ、そんなどうでもいい疑問など、十歳の少年の頭に長くとどまるわけがない。ラギルニットは心地よいまどろみににんまりしながら、寝棚のはしごに足をかけた。
「――ッうわ!?」
 そして思いきり段を踏み外し、床に転げ落ちた。
「い、いたたぁ」
 ラギルニットは半泣きになって、ひねった足をさする。そこできょとんとした。
 裸足の足が、自分が知っているよりもずっと骨ばっていて大きい。それどころか、足をさする手の平もやけに大きくて、ゴツゴツしていた。
 大人の手足だ。
「かっちょいー」
 いまいち事態が理解できないラギルニットは、緊迫感なくどきどきと胸を躍らせる。そのとき船長室の扉が開いたので、思考が一時中断した。
 外から入ってきたのは、一人の小さな少年だった。
 柔らかそうな黄金の髪、眠たげな赤い瞳。
 自分と似たような背丈で、年の頃もだいたい同じの……。
 ラギルニットである。
「ひょええ――!?」
「……はよ」
 もう一人の「自分」は寝ぼけ眼をこすりながら、やる気のない朝の挨拶をして、そのままふらふらと前を通りすぎ、寝棚の一段目に倒れこんだ。
 普段ならば、副船長のホーバーが寝ているはずの場所である。
「う、うわ……うわ……!?」
 ラギルニットが唖然と見下ろす中で、「ラギルニット」は枕を生涯の恋人のように抱きしめ、うにゃうにゃと呟いた。
「俺はまだ寝る。ごはんできたら起こしてくれ…」
「きゃあ! おれが休日のおっさんみたいなこと言ってるー!?」
 そこでラギルニットは「あ」と目を見開いた。
 まさか。そんなまさか。
 ホーバーが寝ているはずの寝棚の一段目。いつもは自分よりも起きるのが遅いくせして、今日に限ってどこかに消えているホーバー。休日のおっさんみたいな寝ぼけた台詞。完全に目を覚ましていない半開きの目。
 まさか。この少年は、まさか――。
 ラギルニットの大きな声に反応して、うつらうつらと眠りかけていたもう一人の「ラギルニット」は不機嫌そうに顔を上げた。
「誰が、休日のおっさんだって…? ラギ…ル――」
 ラギルニットと目が合った「ラギルニット」は、そこで言葉を切り、半開きの目をしばしばさせた。
「…………」
「…………」
「……………」
「…………」
 もう一人の「ラギルニット」は、苦悩に顔を歪め、額に手を押しあてる。
 ラギルニットもラギルニットで、二の句が出ずに立ち尽くした。
「……お、俺がもう一人いる?」
「何でホーバーがおれになっちゃってるのー!?」
 そして二人はお互いの発した台詞に、今度こそぎょっとした。

「俺が、ラギル!?」
「ホーバーが、おれ!?」

「……ええ!?」
 どーん。

 この物語は「俺がアイツでアイツが俺で!バトン※」によって、入れ替わりの呪いをかけられたラギルニット船長とホーバー副船長の、愛と友情の、そして描写的に混乱が混乱を呼ぶ感動巨編である。

 ※バトン…インターネット上で人から人へと回される様々な質問集。「俺がアイツでアイツが俺で!バトン」は、あるキャラとあるキャラの体が入れ替わったら…というシチュエーションで、幾つかの設問にキャラ自身が答えてゆくバトンです。この短編は設問を元に、回答を小説内に組み込んで書いたものです。(設問は最後に)


君が僕 僕が君



 その日の朝に行われた船長会議は、際どい空気に包まれていた。
「あー、それで……今後の進路について……船長と副船長の考えをお聞かせ願いたいのですが」
 会議の進行役は、強面で知られる水夫長のリザルトである。リザルトは嫌な汗をだらだらかきながら、自慢の黒ヒゲを動揺しきった様子で撫でまくった。
「ハイハイハーイッ、おれ、オーロラ見に行きたーい!」
 元気いっぱいに挙手したのは、副船長のホーバーである。そんなにしなくても十分に見えてますよ、と言いたくなるほど豪快に両手を振りあげ、ガタガタと椅子が揺れるほど興奮してはしゃいでいる。
 吐き気を誘う、我らが副船長殿の不気味な姿に、集まった船員たちは呆然とした。
「……ふ、副船長?」
「何だ?」
 オロオロと声をかけるリザルトに応えたのは、ホーバーではなく、船尾窓の側の棚に背を預け、さっきから遠い目をしているラギルニットである。
「い、いや、船長ではなくて、その……」
「え? あ。いや……、いいよ。俺でいい。ソレは放っておいて」
 戸惑うリザルトに手をひらひらと振って、ラギルニットは「はぁ」と苦りきった溜め息をついた。その姿に船員たちはさらに愕然とする。あの可愛さ余って可愛さ百倍のラギルニット船長が、人生に疲れ果てたおっさんのような顔で溜め息をついている。
「うわ、ひどーいっ」
 ホーバーが抗議の拳を振りあげるのを赤い瞳で睨みつけ、ラギルニットは腰に手を当て、絶望する船員たちを見渡すと、作戦机にもみじのような手を置いた。
「とりあえず、オーロラは却下として」
「えー。ぶーぶー」
 ぶーぶーて。
 ぷっくりと頬を膨らませるホーバーに恐怖を感じ、船員たちはじりじり互いを探りあった。誰か言えよ。誰か突っ込めよ。何が起きてるのか、どうしちゃったのか、ホーバーさん頭は大丈夫ですか、女にでもフラれましたか、もうすぐ引退ですか、って誰か聞けよ!
「今回はケナテラ大陸方面を目指そうと思う。希少な植物が手に入る交易ルートの情報が手に入ったそうだ。シャークからの情報が詳しく入ってから、実際に進路を決めようと思っているけど……何か意見は?」
 意見なんて山ほどあるのに、山ほどありすぎて結局誰も何も言えない。
「……そう」
 青ざめた顔でふるふる首を振る一同を見回し、ラギルニットはいまだに机にへばりついて「ぶーぶー」言っているホーバーを、複雑な表情で見下ろした。
「ということで……いいかな、“ホーバー副船長”?」
 ホーバーは応えず、「どーせ子供っぽいとか思ってるんだ」とかブツブツ言っている。ラギルニットは本棚から薄い本を取り出すと、思いきり副船長の碧の脳天をひっぱたいた。
「っいだー!! い、いきなり何するんだよー!」
「いつまでもぶつくさ言わない。会議が終わらないだろ。ほら、まとめの挨拶」
「おれ、まだ納得してないも――はい、ごめんなさい、まとめます」
 ラギルニットに黒い笑顔を向けられて、ホーバーはおろおろと挙手する。しかしすぐにその首を傾げた。
「て、え、あれ? おれがまとめるの?」
「いつもまとめてるだろ」
「えー、まとめてるのはホーバーじゃん」
「……だから、ホーバーが」
「え? ――うわ、そうだ! おれ、ホーバーだった!」
 ひぃっ。船員たちの間に恐怖と驚愕を通りこした哀憫の感情が駆け抜ける。なんかかわいそう。とってもホーバー、かわいそう。
 不器用に椅子から立ち上がったホーバーは、落ちた顎すら拾えない船員を見下ろし、不意に「うわ、見下ろしてる! おれみんなのこと見下ろしてる!」とすっごいカチーンと来ることを言った。
 同情と憐憫を、ふたたび怒りへと切り替える船員たちには気づかず、ホーバーはコホンッと偉そうに咳払いをした。
「えっと、じゃあ何も意見がないようなので、これで会議を終了しまーす。オーロラ狩りは次回ってことで。ね! ……て、あ、あれ?」
 にぱっとしか表現できない顔で笑ったホーバーは焦った。いつもなら、「アイアイ船長!」と叫んでいるはずの船員たちが、何故か手近にあった重そうな物に手を伸ばしているのだ。
「と、とりあえず、今日のところはこれで……」
 ラギルニットが苦悩に顔を歪め、閉会を宣言した。
 途端、船員たちは凶器から手を離し、「アイアイ船長……」といつもより納得のいっていない声で応えるのだった。

+++

 ホーバー、もといホーバーの体と入れ替わってしまったラギルニットは、衝撃のあまり床に膝をつき、ふるふると苛められた子猫のように震えた。
「ううう。どうしてだろう、なんかみんなが怖かった!」
 会議中に漂い続けていた、あのピリピリとした空気。思い出すだけで恐ろしい。いつもならば多少のわがままを言っても、「ラギル船長のためなら!」とか、「あはは、面白い提案だなラギル、でもそれは次回な」とか優しく応えてくれるのに。
「オーロラ、そんなにダメだったかな? もうわがまま言わないよ、おれ……っ」
 本気で打ちひしがれるラギルニットに、ラギルニットの姿になってしまったホーバーは、抜け殻のような透明さで「…いや」と首を振った。
「オーロラがダメというか……」
 自分の顔をしたラギルニットが、うるうると瞳に涙を浮かべて振りかえってくる。
 ホーバーはつい……と顔をそらし、青ざめた顔でかろうじて続けた。
「俺だからダメってことだ……」
 ラギルニットは目をぱちくりさせ、「あ、そうか。おれ、今ホーバーなんだよね」と納得して、同情の眼差しをホーバーに向けた。
「ホーバーっていつもみんなに、あんな冷たい態度されてるの?」
「――ともかく」
 自分の待遇の悪さを改めて認識してしまったホーバーは、無理やり話題を変えると、さっきからものすごく不気味な行動ばかりしている自分、「ホーバー」の顔に指をつきつけた。実際には、身長差のせいでまったく指が届かなかったのだが。
「ラギル、もう少しお互いにお互いの真似をしたほうがよくないか?」
「え? どういうこと?」
「ラギルだって、自分の顔で、普段からはまったく考えられないことやられたら嫌だろ?」
「ホーバーが、おれの顔で、ホーバーなことをするのが嫌かってこと?」
「そう。ラギルが俺の体で無邪気にはしゃいだり、くるくるしたりするのが嫌だってこと」
「うーん。でもおれ、「おれ」がホーバーみたいなことするの、面白いから全然オッケー!!」
「俺が気色悪いんだよ!」
 ラギルニットは、「ラギルニット」が鳥肌をたてながら地団駄を踏むのを、珍しげに見つめた。何だかホーバーだと分かっているのに、見知らぬ少年がお菓子をとられて「いやだいやだ」と暴れているみたいで可愛かった。
「お、おれ、かわいい……」
 おれっていつもこんなに可愛いのかなと、ちょっぴりナルシスト気分に浸るラギルニットである。
「でも真似っこはしないとだねぇ。またみんなに、さっきみたいな態度とられちゃったら、おれ、耐えられないよ」
「俺は毎日耐えてるけどな」
「あ、ねぇねぇ、その前に、おれ、ホーバーにやってほしいことあるんだけど!」
 ラギルニットはにぱっと笑うと、机の上の定規を取り上げて、ホーバーに手渡した。
「これでいいから、おれの体で、剣術やってー!!」
「え、なんで?」
「見たいの、かっこいいおれが見たいのー!!」
 キャーッと跳びはねるラギルニットを気味悪そうに見上げ、ホーバーは定規を手でもてあそぶと、「うーん…」とうなりながら簡単な剣舞を披露した。
「っうはぁあ!」
 ラギルニットは感動に顔を輝かせた。ホーバーは小さな体をうまく使いこなせず、最後の部分でよろめいて、ばたりと床に転がった。
「もっと成長しろよ、ラギル」
「えへへ、ありがと! がんばる気になったっ。ホーバーもなんかおれにやってほしいことない?」
「ない」
「ガーン!」
 そのとき、船長室の扉が外からノックされた。
 二人はハッと顔を上げると、真剣な顔でうなずきあって、どちらともなしに「ど、どうぞ」と言った。

「さっきから騒いでる声聞こえてるけどどうしたの?」
 入ってきたのは、よりにもよって無敵の変人メル博士であった。
「え、べ、別に……」
 大好きなメルが遊びに来たことでついキラキラしてしまう瞳を両手で覆い隠し、ホーバーの格好をしたラギルニット、以下ホーバーは不自然に答えた。
 訝しげにするメルに焦って、ラギルニットの格好をしたホーバー、以下ラギルニットが「アハハッ」と固い笑い声をあげた。
「な、なんでもない、よ、ちょっと、ね、えっと、喋ってただけっ、だよな、ラ……ホーバー!?」
 超おかしかった。ホーバーは吹き出しそうになるのを堪えて、ぶんぶんとうなずいた。
「う、うんうん、そうそう、おしゃべりしてたんだ、ぜっ、ね!? ラギルニット!?」
 超気色悪かった。ラギルニットは額に手を押し当てて、絶望に打ちひしがれる。
「……ふぅん??」
 違和感バリバリな二人に不審げにしながらも、メルは不意ににっこり笑うと、ダダダーッと船長室に進入し、いきなり怯え竦むラギルニットの小さな体を抱きしめた。
「ラギルちゃん、ラギルちゃん、あたしのラギル船長、聞いてくれる!? 小生一世一代の発明品が完成したのー!」
「っひぃー!?」
「いや~ん、ラギル船長ったらそんな可愛い歓喜の声を上げちゃって! ぶちゅー!!」
「――……ッ」
「う、うわぁ、ずるーい! おれもちゅーしたーい!」
 泡を吹いて気絶するラギルニットを力いっぱい抱擁していたメルは、ぎょっとした顔をした。
「……今、あなた、何て?」
 ホーバーは「あ、やっちゃった」と凍りつき、慌てて「えへへー」と碧頭を掻いた。
「ず、ずるいなぁって言」
「っそこの農薬をふんだんに使用した緑黄色頭――!!」
 メルは寝棚に乗っていた枕をホーバーに投げつけるなり、ピンク色の丸眼鏡を鼻頭に装着、背後に稲妻を閃かせた。
「それか、その口か……! 変態変人変質者な己をひた隠して生きてきた二十七年、ついに本音を暴露しちゃったのはそのおちょぼ口か――!!!」
「ほ、ほげぁわほがぁっ」
 口を左右にびよびよと引っ張られて、ホーバーは悲鳴を上げる。
「どうだ痛いか、貴様の張り裂けんばかりの心は失恋の痛みに苦しんでいるか! ふははははははは笑止千万! このメル様にちゅーしたいなどと言う、この緑色のUMA(未確認生物)めが! 趣味がいいじゃないか!!」
 メルはホーバーをスパパパンッと威勢よく平手打ちにすると、彼の胸倉を上腕二頭筋に仕込んだ発明品「馬鹿力を引き出しマッスル」によって発揮された腕力で掴みあげた。
 カチャ。
 ホーバーの額に、トゥーダ大陸の銃器的なものが押しつけられる。
「メ、メル、ご、ごめんなさい、おれ、その、その、間違っちゃってっ、あ! ち、違う、違うんだ、えっと……間違ってしまったんだぜ!? ――えぇえ!? ホーバー、こんなんだっけ!?」
「はははは何を言っているかチンプンカンプンだが、しかしてその通りだ、今さらではあるが貴様は左様、己の生き方を間違っちゃったのだ愚か者よ。二十七にもなってそのことに気づくとは愚か、まことに愚か。このメル様を恋の相手に選んだ賢明さには万歳三唱を贈ってくれるが生憎と私は貴様のような下賎な民にはさらさらストレートパーマ並に興味も関心も持ち合わせておらぬわ。そんなかわいそうな貴様には、メル様の唇よりも、鉛弾が、お・似・合・い、だ」
 メルは口をぱくぱくさせるホーバーに向かって、ふっと微笑みを浮かべた。
「さらば、私を愛した愚か者……」
 そして引き金は引かれた。

「ホーバーって……! ホーバーって……!」
 まんざらでもない様子のメル博士が去った船長室。
 気を失った「ラギルニット」の横に倒れ伏したホーバー、もといラギルニットは、自然に優しいリサイクル式水鉄砲を食らった額を押さえながら、身体的痛みとホーバーへの同情心で、心からの涙を流すのだった。

+++

「おれ、もういい。もう元に戻りたい……」
「……俺はとっくに戻りたい」
 ひっぱたかれた頬が腫れてきたラギルニットは、メル博士の抱擁と接吻で生気をすっかり奪われたホーバーの小さな手をぎゅっと握った。
「うわーん、みんながこわいんだよ、ホーバーっ」
「女の母性本能がこわい……」
 船内には、すっかり会議でのことと、メルとのやり取りの噂が広がっているらしい。廊下を歩いていると、さっきから、ちらちらと痛ましげな視線を感じる。その大部分は言うまでもないが、ホーバーに向けられたものだ。変態だ、ホーバーが変態、変態がホーバー、ホーバーが変態…などと囁きあう声が聞こえてくる。
「ごめんね、ホーバー、おれのせいだー!」
「いや、俺も、うまくラギルの真似ができなくて……」
 しかしホーバーだけの評価が下がっているのは、人徳の問題か、日ごろの行いか。
 どんよりしながら二層甲板奥の便所に入り、扉にガッチリと鍵をかけると、二つ並んで設置された便座の前に立つ。
「……ちんこ、ちっさいな」
 抜け殻状態のホーバーは、自分のすっかり可愛くなってしまったイチモツをぼけーっと見下ろし呟いた。ラギルニットはガビーンッとショックを受け、キッと自分の股を見下ろし、鼻で笑った。
「ホーバーのがちっさいよ!!」
 ちゅどーん。
「あ、あれ? う、嘘だよ、ホーバー。おっきいよ。巨人みたいにおっきいよっ。……て、あれ!?」
 言えば言うほど墓穴を掘るラギルニットである。
「ううう。ホーバーが先に言ったのに」
 ラギルニットは用を足し終えると、しみじみと今は自分の物な「ホーバー」のそれを見下ろし、首をかしげた。
「でもこれって、大きいのかな。小さいのかな」
「頼むから、俺が悪かったから、もうその話題から離れてくれ」

 鬱屈と便所から出ると、左右から別々に船員が近づいてくるのが見えた。
「ラギルちゃん、あそぼーっ」
「副船長、ちょっと確認したいことがあるんだけど」
「……」
 ラギルニットはホーバーと疲れきった視線を交わした。
「ねぇ、おれたち、元に戻ると思う?」
「さぁ。何でこんなことになってるのかも分からないしな」
「頭ゴツーンッとかしたら、元に戻るかな?」
「可能性はあるけど、いやだな…」
「もしも、もしもだけどね? 戻らなかったらどーする?」
「……寿命が十七年延びたと思って、無理やり喜ぶことにする」
「えー! じゃあおれ、十七年、早く死ぬんだー! やだなぁ」
「……おい」
「でもとりあえず、いつ戻るかわからないんだったら――」
「わからないなら、とりあえず――」
 一瞬、いつもの癖で逆方向に進もうとした互いの体を、ぐるりと腕組みで反転させ、二人は同時に覚悟を決めた。

「……やっほー! ファル、いっぱい遊ぼー!」
「あー、ゴホン。ログゼ、フェルカ、どうかしたか?」

 体が入れ替わってしまった二人の戦いは、まだ始まったばかりである…。

おわり


 おまけの掌編。

 ホーバーの頭がイカれて、ラギルが老けこんだ。
 そんな噂が掘り当てた温泉のような勢いで船内に噴出する中、すでに渦中の二人と謁見を果たしたログゼとフェルカ、ファルは、どぎまぎと食堂で顔を突き合わせていた。
「それで、ホーバー兄の様子、どんなだった?」
 ファルは不安げに、ログゼとフェルカのほうへと身を乗り出した。
 途端、二人は顔を赤くして、もじもじと互いを突きあった。
「それが、ホーバー副船長、変なんです」
 話し始めたのは、フェルカのほうである。
「噂通り、すごく変だったんです。最初は、何だか「こんなのホーバーじゃない」とか「うわ、間違えた」とか独り言をぶつぶつ言っているので、すごく怖かったんですけど……」
「そうそう、で、引きまくってたら、「どうせおれなんて」とか言い出してよ……」
 ログゼが話を引き継ぎ、神妙な顔でうなずいた。
「あんまりに鬱陶しいんで、俺たち、適当に慰めたんだよ」
『しっかりしろよ、副船長。どんなんでも、あんたはあんただろ』
 そうしたら、予想外の反応が返ってきた。
『うん、ありがとう』
 それは今までに見たこともない、素直で純朴な、ホーバーのはにかんだ笑顔だった。
 ログゼとフェルカはその時の笑顔を思い出し、カァッと頬まで朱に染めた。
「なんか……俺、ときめいちまって…」
「僕もです……」
「妙に守ってあげたくなっちまうような……」
「支えてあげたくなっちゃうような……」
「……そ、そうなんだあ」
 まるでラギルニットのようである。ラギル的笑顔を振りまくホーバーがちっとも想像できないファルは、引きつった笑顔で曖昧に答えた。
 ログゼは気まずげに咳払いすると、今度は逆にファルのほうへと身を乗り出した。
「で、ラギルは? ファル、ラギルんとこに遊びに来てただろ? 大丈夫だったか?」
「え、う、うん……」
 ファルはそこで何故か耳まで真っ赤にして、口元を手で押さえて俯いた。
「ボク、ラギルちゃんが心配で。それで悩みがあるなら相談にでも乗ろうと思ったんだ。そうしたら……」
 人目のつかない所のほうがいいだろうと思い、見張り台を目的地に、縄梯子をラギルニットが上に、ファルが下になって登って行った。何度か声をかけるが、その返答は違和感だらけで、ファルは心配が爆発して思わず言ってしまった。
『やっぱりなんか、ラギルちゃん、変っ』
「そうしたらラギルちゃん、ショック受けちゃったみたいで、すっごい暗い顔で「どうせ俺なんて」とか、「変ですよ、変態ですよ」とかブツブツ言い始めたんだ。それでボク慌てちゃって」
『ち、違うよ、ごめん、変って、そういう変って意味じゃなくて……っう、わ――!?』
 ファルは慌てるあまり、とっさに縄梯子から両手を離し、ぐらりと体勢を崩した。
 落ちる。そう思った瞬間、思いもよらぬ力強さで手首をつかまれた。
 固く閉じた目をおそるおそると開くと、しっかりとファルの体を捕まえたラギルニットが、少し怒ったような赤い瞳で顔を覗きこんでいた。
『何やってるんだ。気をつけろ、ファル』
 その時のことを思い出し、花や恋よりも冒険な少年っぽいファルは、恋した乙女のように頭を抱えた。
「な、なんでだろ、すっごく何だか、カッコよかったんだよ~っ」
 ログゼとフェルカは驚いて、うなじまで真っ赤なファルを見て、妙に感心した。
「あのファルがこんなになるとはな」
「船長、やりますね……」
 秘密を共有する三人は、赤らむ顔を突き合わせた。
「同盟でも作るか?」
「え、なに同盟ですか?」
「はにかみホーバー同盟と、黒薔薇ラギル同盟」
「なにその黒薔薇って…!」
「いや、よくわかんねぇけど、そのラギル、黒薔薇っぽくねぇ?」
「い、いやだよ、なんだかいかがわしいよー!」
「じゃあいかがわしいラギル同盟…」
「きゃーっっ」
 二人が評価を落としまくる一方で、一部、妙な同盟が出来上がるバクスクラッシャーなのであった。


【設問内容】
1.まずはお名前と入れ替わった相手の名前を教えて下さい。
2.入れ替わっちゃった!第一印象は?
3.この状態で一日何する?
4.これを見たあなたの周りの人の反応は?
5.相手になってしてやりたい!ってことは?
6.逆にされたくないことって?
7.正直今の自分どう? 8.元の体に戻れたとしたら今すぐ戻る?
9.大変!戻れなくなっちゃった!
10.次に回す人をそれぞれ2名選んで下さい。

どっちがどっちなのか、読んでいても書いていても、頭が大混乱のバトン回答短編(笑)
バトンタッチ&読了ありがとうございました!

おわり

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